2012年3月29日木曜日

いちばんはじめにあった海/加納朋子・著

堀井千波は現在ワンルームに一人暮らし。数年前に夫と子供を一度に失い、その現実があまりに悲惨なため、過去の記憶を忘れてしまうことで、かろうじて自我を保っていたのだった。そして、その後遺症とも呼ぶべき、言葉がしゃべれなくなっていた。父は実家にもどるように説得してくるが、千波にとって、幸せだった日々を思いだすことになる我が家は辛かった。そんな千波もまわりの住民の無遠慮な騒音にまいってしまい、引越しを決意、身支度を始めた矢先、一冊の本からYUKIと名乗る人が千波にあてて書いた手紙がみつかる。千波は当初それが誰かわからなかったが、ついに高校の時に友人となった結城麻子のものと判明する。やがて現在の麻子が現れ、千波の心を少しずつ癒してゆき、ついに千波は声を発する。それは麻子への感謝と謝罪のこもった「かんにんな。」だった。

あらすじとして書くととても平坦な感じになるが、本編は高校時代にしかあじわうことのできない、淡く、悲しく、せつなくて、だけど輝いているそんな情景をうまく紡ぎだしていると思う。他1篇の2話本。

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