2012年11月6日火曜日

海辺のカフカ/村上春樹・著

上下巻の大作。15歳の少年の不安定な心がやがて成長してゆくきっかけまでを描いた作品。
特に大げさな起承転結があるわけではなく、ストーリーそのものに意味があるというより、この物語の随所にみられる、ロマンティックと言って差し支えないほどの描写、登場人物の感じている心模様が切ないほど心にしみる。そちらにこそ、この本の意味があるように感じた。

 物語は2つの話が交互に語られ進行していく形を取る。一つは、 15歳の少年カフカは、幼い頃母に捨てられた記憶が心の重荷になっており、耐え切れず父のもとから姿を消し、四国高松にある甲村記念館に身を寄せる。そこでしりあう女性の体を持つ男性、大島、館長でありながら、若くして恋人をなくしたために心をその時に置いて来た佐伯と出会う。やがて佐伯が実母と知りながら愛し合う。
 もう一つは戦後まもなく不思議な現象に巻き込まれ、意識がもどった時には、字が全く読めなくなってしまった、ナカタ少年。現在では初老となるナカタさんは、猫と話すなど特殊な能力もみにつけていた。彼は、猫を殺すジョニー・ウォーカーを殺し(これはカフカの父と同一)さらに何かに惹き付けられる様に行動し、出会ったホシノと名乗る青年と四国を目指し旅を始める。
 この話が一つになる。ナカタさんは甲村記念館を訪ね、佐伯を死に至らしめる。ナカタさんも役目を全うしたかのように静かに死んでゆく。
 少年カフカは一方遠方にいて佐伯の死を知り、「かの地」に佐伯や本当にカフカが恋こがれる15歳の佐伯、さらに、自分を捨てた母佐伯に会いに行く。そこで佐伯に生きてもどってほしいと諭され、現実の人生に戻っていく。

0 件のコメント:

コメントを投稿