2012年5月30日水曜日

森の匂い/楡井亜木子・著

中篇小説を3作収録。
百合は、母と亡き父の友人である風間と2人で温泉旅行にでかける。風間は女言葉を使い、百合の幼い時より、百合の家に頻繁に出入りしていた。2人の関係は、百合が主である主従関係を保っているかに思えたが、やがて百合は風間のなかに男としての野性的な面をみつけてたじろぐ。そして、やがて、風間は以前から母と不倫関係にあった事を感じ取る。しかし、風間は父が亡きあとも百合の家に出入りを繰り返すが、母と結婚するきもないと言う。
男女の複雑な愛の形を描いた、文学にありがちな「おち」のない、唐突に物語は終わる。
他、ある日店の前にしゃがんでいた男を行きがかり上、助け一緒に暮らし事になっていく男の話「訪問者」と、過激派だった母の同輩の男と不倫の恋に落ちる「牙の恋人」を収録。

2012年5月25日金曜日

県庁おもてなし課/有川 浩・著

高知県庁に実在するが、話自体はフィクション。
高知県を観光立県とするべく、新設された「おもてなし課」。最初の活動は高知出身の著名人に親善大使となってもらい、高知の観光所を印刷された名刺をくばることだった。著名な作家、吉門喬介がしかし、手厳しくおもてなし課にクレームをつける。しかし、その指摘はことごとく的を射ており、課の担当掛水は、吉門に高知再生の指南を申し出る。物語は、おもてなし課が四苦八苦しながら、やがて観光のあり方を徐々に掴み、体得、そして、さらなる飛躍をしていくであろう、と言う形で終わっている。観光大国を目指す、高知県庁の人々を観光というもので一つにしながら、同時に掛水と民間登用された明神多紀との恋、吉門と血の繋がらない、妹佐和との恋愛をからめて進行していく。それがおもしろくて、読み進められるが、若干、観光のPR文体が長々とあり、途中、少し飽きさせる。但し、全体的にみると、読みやすく、共感がもてるないようであった。

2012年5月17日木曜日

ハロンの瞳/恢 余子・著

ちなみに作者名は「ひろし よし」と読むようです。
イサムはニューヨークの新高層ビル「コーポシティ」に居を構えることになった。しかし、この近未来の都市に次々と殺人事件が発生。事態は単なる殺人事件ではなく、世間を揺るがせている、カリブ海の小国アズマイア王国の王位継承問題とその国の石油資源を巡る争奪戦となり、既に日米両政府を巻き込んでの世界的事件へと発展していた。アズマイアの重要人物が、コーポシティのイサムの隣人であったことから、イサムは親しくなった関わりで、この隣人を暗殺者の手から逃がす事を決意。こうして、米大陸を横断する逃亡劇となる。途中幾多の襲撃にあいながらもラスベガスまで逃亡は成功する。そして逃亡しながら徐々に隠された真相が明らかに。アズマイアの重要人物としてイサムの隣人になりすました男性は、アズマイア皇女であり、アズマイア皇族の中にも反逆者がいたり。しかし、ついに皇女はイサムの目前で凶弾に倒れる。イサムは皇女の仇をうつべく、拳銃の猛練習を重ね、皇女を暗殺に至らしめた関係者を血祭りにあげ、目的を果たすのだった。
と、このような冒険活劇調なのですが、登場人物の背景が複雑すぎて、誰がどこの所属で立場は。。。など、混乱して楽しめなかった。

2012年5月7日月曜日

彩月/髙樹のぶ子・著

季節の短編という副題がついている通り、ショートストーリが12編。様々な人生模様をSF的な雰囲気をだして、面白く読める。 岬近くのひなびた旅館に、につかわしくない、身なりのしっかりした夫婦が宿泊する。実は、妻の方は若くして痴呆を患っており、病状が進む前に夫に「自分がぼけてしまったら郷里の岬から、私を突き落として欲しい、」と夫に約束させていた。やがて、完全にぼけが進行し、もはや排泄などの生活習慣さえ覚束ない状態となり、夫は約束を守るべきか、破るべきか、悩む。海辺でのひと時、妻は見慣れない貝がらをひろい、その貝の名前を言い当てる。そこには、往年の愛した妻が意識を取り戻していた。しかし、その後病状は元に戻り、もはや貝の名前どころか、それが貝であるかさえも不明の様子にまたしても夫の心は揺れ動く、「月日貝」 刑期を終えて晴れて出所。自分を待っている妻、美津江のもとに車を急がせる男。やがて、懐かしい故郷の景色が見え、我が家へ。妻は暖かい食事を用意して待っている。と夢は終わり、起き上がると刑務所の中。もうじき刑期を終える男に、看守は男が殺した妻の墓をみまってやれ、と言い、男もそうするつもりだ、と応える「夜神楽」など。