2012年3月29日木曜日

海猫屋の客/松村友視・著

小樽にある海猫屋は喫茶店、その隣に魚藍館という宿があり、海猫屋のマスターが経営していた。ここに宿泊している人物をとりまく物語。話の展開はもっさりしていて全体の統一性が無く、どんな話に展開するのかわからない。結局、色恋沙汰の話。夕美子は、魚藍館に泊まる唯一の女。同じ場所に泊まる清宮と恋仲に。しかし、夕美子には過去に新興宗教の教祖に母を殺され、自身も犯されるという悲しい過去が。そして、清宮もまた、その教祖に雇われ、夕美子の行方を捜していた探偵だった。最後は乗り込んできた教祖を夕美子が殺し、自身も自殺を遂げる。清宮は夕美子と暮らした小樽の数ヶ月を胸に小樽を去っていく。

水曜の朝、午前三時/蓮見圭一・著

45歳の若さで病死した女性が娘のために残した4巻のテープを、娘の夫である語りべが文章にまとめた、という設定で始まる。1970年大坂万博でコンパニオンを務めた直美が落ちた恋の相手は、万博関係者の中でも女性から一番人気の高かった臼井であった。激しく恋に落ち、やがて結婚の話まででかけるころ、臼井が実は北朝鮮の工作員であることがわかり、家族も反対、当の本人も怖くなり、臼井の前から逃げるようにして大坂をあとに。その後見合い結婚をし、娘を出産。しかし、臼井への想いは絶ちがたく、年に数度あっていた。もし、あの時、あの人との人生を選んでいたなら。。そういった思いや娘に向けての人生応援の意味も託してのテープだった。70年代。日本にとってとても意味のある、もはや戦後ではない、これから来る高度経済成長前独特の、誰もが何かを探していたたくましい時代背景がよく伝わる、しかし、切ない恋愛告白小節

ひとり日和/青山七恵・著

第136回芥川賞受賞。母子家庭の娘が母の中国赴任にともない、一人暮らしを始めるまでのエピソードを綴ったもの。変に凝った作品が多い文学、なかでも芥川賞なのに、意外と読みやすかった。遠縁の一人暮らしのお婆さんの家に1年居候することになり、そこでの日々の体験を通して主人公なりに考え行動し、成長し、やがて就職、社員寮に移り、一人暮らしをするまでの1年を春夏秋冬を章分けにして綴ったもの

終の住処/磯崎憲一郎・著

第141回芥川賞受賞。特に好きでもなかった相手を妻にめとり、浮気をし、別れる決意をした時、子供が出来、結婚を続け、また浮気をし、仕事に打ち込む内、妻とは11年間も口をきかなかった、その後家を購入し、仕事の都合で単身アメリカに赴任、帰ってみると娘はアメリカ留学、そして、50歳を越えたいま、購入した家と、よくわからない妻との余生が待っていた。 感想を書けばこうなるが、もちろん文学。それなりに示唆が随所にあるのだろうが、私には難しすぎたようで、あまり理解できなかった

三軒目のドラキュラ/上野瞭・著

夫・慶、妻・恭子、息子・励、娘・千洋の家族崩壊の話。千洋はある朝駅のホームで中年男からいんねんをつけられ、その後も何度と無く駅で待ち伏せされ、ノイローゼになる。それをみた励と慶は、中年男を取り押さえ、そのはずみで励はその男をホーム下に転落させてしまう。一方慶は、その男が上司であることがわかる。事件は公となり、3人とも学校や職場などから自宅謹慎となるが、恭子を心配させまいとして、いつも通りの通勤・通学を演じる。恭子も自身にトラブルをかかえていた。ボランティアで老人介護を行なっていたが、その一人の老人・吉元に言い寄られ、しつような誘いに逆ぎれ状態となり、ホテルに同行する。しかし、吉元はセックスの最中に死亡、こちらは事件にはならず、家族は恭子のトラブルを知らずじまい。やがてそれぞれに立ち直っていく過程において、家族の大切をわかり始める。

火の壁/井野上裕伸・著

火災保険調査会社の相沢が過去十数年間に5度も家を焼失させ、その度に保険金を受け取り、自前のすし屋を拡張して成り上がって行った桶川の6度目の火災のトリックと、それにまつわる不可解な人の死、とりわけ桶川の前担当者である中井の疾走も含めての謎を解き明かして行く推理ミステリ。桶川の生い立ちからさかのぼり、6度目の火災発生現場の群馬・霧生市から塩沢石打の距離のアリバイを崩し、桶川を法廷に引っ張り上げたと思った相沢だったが、真実は失踪した中井が桶川の替わりに自宅に火を付け、その代わり、保険金の一部を中井によこす様にと脅迫した事が真実だった。法廷で勝ち目の無い事を悟った桶川は、やけになり、故郷である霧生の町全体を燃やし尽くそうとして、各所に火を放つが、最後に町外れの遊園地の山林火災を起こした際、自らの服に引火し、火中の人となる

水上のパッサカリア/海野碧・著

第十回日本ミステリ文学大賞新人賞受賞作、らしいが、たいしたことなかった。主人公は事故で、彼女を失ったが、それは仕組まれた事と知り、昔の仕事仲間(始末屋と呼ばれる、法ぎりぎりの所で復習や処罰を下す仕事)と組んで、彼女の復讐をする。しかし、それは主人公の財産をねらった、元仲間達のわなだった。主人公を陥れようとした元仲間は相打ちという形になり、主人公を狙う2人はともに相手の放った凶弾にたおれ、主人公は助かる。。。。話自体は悪くないが、ムダに描写が長い。そして、スピード感にかけている。いらない描写をきり除けば、1/5くらいの本の厚さになり、すっきり読みやすくなると思う。

江戸川乱歩全集1/江戸川乱歩・著

収録作品 二銭銅貨・一枚の切符・恐ろしき錯誤・二發人・双生児・D坂の殺人事件・心理試験・黒手組・赤い部屋・算盤が恋を語る話・日記帳・幽霊・盗難・白昼夢・指環・夢遊病者の死・屋根裏の散歩者・百面相役者・一人二役・火縄銃

こうして、連続して読むと、さすがにワンパターンな傾向がみてとれるが、アイデアは大正時代の発行であるとすると、斬新で新鮮だ。特にワンパターンとなる、「どんでん返し」は読んでいてつい引き込まれる。

鄙の記憶/内田康夫・著

同業種で知り合いの久保が、静岡・寸又峡で殺害される。その前に伴島へ電話し「面白い人にあった」と言い残し。そして翌日秋田・大曲出身の住田が同じ寸又峡で殺される。探偵の浅見光彦は事件の真相が17年前の秋田・大曲の老婆横居ナミ殺害にあるとして大曲に飛ぶ。しかし、それより以前に事件の真相を暴くべく単身大曲入りしていた伴島が同地で他殺体となって発見される。浅見は弔いとして推理を始めた。そして判った事は、17年前に横居ナミを殺害したのが、住田であり、住田に横居宅に大金があることを知らせたのが、横居ナミの次男慎二の妻マリコだった。マリコはこれを機に住田から警察に一部始終をばらすと脅迫を受けることになった。慎二はさらに若い時に傷害事件を起こしており、その際、尽力してくれた刑事岩岡と伴島のうち、岩岡に相談する。岩岡は住田を寸又峡で殺害するが、その帰りに久保に写真をとられた。「面白い人」と伝言を残した久保は、こうして口封じされた。そして伴島はそれを推理したが、秘密をあばかれると恐れたマリコにころされてしまう。マリコに惚れていた岩岡は、浅見に犯行を看破され、すすめ通り自首するが、マリコをかばい、あくまで3人を殺したと自首をした。一方、マリコは精神的に耐えられず床に伏せることがおおくなり、半年後病死する。

安土城幻記/阿刀田高・著

以前京都の大徳寺で狩野永徳が描いた山水花鳥図を見て以来、その独特な才能に魅入られてしまった私は、その後、夫婦でのフランス旅行で狩野永徳にまつわる依頼を、現地で親しくなったツアーコンダクターのノエルから受ける。その依頼とは、織田信長が狩野永徳に描かせた安土城遠映を2双開きの屏風があり、これはその天正少年使節団の手によって、ローマ法王に献上され、その後行方不明になったが、ノエルはこれを以前見たことがあり、しかし、この絵が本物かどうか資料が乏しいので、日本でもう少し詳しく調べてほしい、というものだった。私は承諾し、早速調査を開始するが、次第に、この絵に近づく物は不幸や死が訪れる事がわかる。古くは信長が数十日後に本能寺にて自害、そして、私の妻が病死、安土の地で知り合った永徳に詳しい太田が事故死、ノエルの依頼でイタリアにその絵があると見に行った同僚の山形が急死、そして私自身にも病魔が襲い掛かり死ぬ。

いちばんはじめにあった海/加納朋子・著

堀井千波は現在ワンルームに一人暮らし。数年前に夫と子供を一度に失い、その現実があまりに悲惨なため、過去の記憶を忘れてしまうことで、かろうじて自我を保っていたのだった。そして、その後遺症とも呼ぶべき、言葉がしゃべれなくなっていた。父は実家にもどるように説得してくるが、千波にとって、幸せだった日々を思いだすことになる我が家は辛かった。そんな千波もまわりの住民の無遠慮な騒音にまいってしまい、引越しを決意、身支度を始めた矢先、一冊の本からYUKIと名乗る人が千波にあてて書いた手紙がみつかる。千波は当初それが誰かわからなかったが、ついに高校の時に友人となった結城麻子のものと判明する。やがて現在の麻子が現れ、千波の心を少しずつ癒してゆき、ついに千波は声を発する。それは麻子への感謝と謝罪のこもった「かんにんな。」だった。

あらすじとして書くととても平坦な感じになるが、本編は高校時代にしかあじわうことのできない、淡く、悲しく、せつなくて、だけど輝いているそんな情景をうまく紡ぎだしていると思う。他1篇の2話本。

2012年3月25日日曜日

夜のピクニック/恩田陸・著

2009年12月11日金曜日
高校生活最後の「歩行際」を通して起こる様々な事件、想いなどを綴った物語。歩行際 とはこの高校独自の行事で、24時間中をかけて80キロの道のりを、全校生徒で歩き通すという、高校生にとっては、ハードな行事。しかし、極限状態を友人と味わうことで、深い思い出となり、毎年、楽しみにされている、特別な行事だ。 高校生活をありありと思い出させてくれる、秀逸な作品です。私はこの本をベスト本の一冊に間違いなく選ぶでしょう。自分自身の高校生活とホントにオーバーラップして、あの時の感情、切なさ、楽しさ、苦しさ、不安定さ、様々な感情が混然となった高校生ならではの感情を見事に体感できて、ほんとに読んで、いや、蔵書としておきたい、と思いました。

木漏れ日に泳ぐ魚/恩田陸・著

2011年12月30日
千尋と千明の男女二人が別れ、明日からは別々に生きる引越し前夜を舞台にした物語。2人は恋人同士ではなく、双子の兄弟。1年前に旅行に行った際、山岳ガイドの男が転落死した件でお互いに殺したのは、相手ではないかと疑っていた。そしてその男とは二人の実の父であった。父は二人の出生の事実を知る前に母と別れたのだったが、何らかの事情で二人の事を知ったようだった。しかし、二人とも殺してない事が判るが、新たな事実も判明する。それは二人が兄弟ではなく、従妹同士である事。それを直感した時二人に微妙な空気が広がる。二人共お互いを好きであったが、兄弟が故にその気持ちを抑え続け、押さえきれずにこうして今夜分かれることに決めたのだから。と同時に何故かいままで好きであった感情が嘘のように消滅してしまうのであった。又、千尋のみの父であった事が判明した山岳ガイドは実は再婚したての妻が自分の夫の素行から、今回引き受けた仕事が前妻の子供に会う事ではないのかと疑い、夫の後を追ってやってくる。それを知ったガイドは、がけ下の妻に向かって帰るように合図、必要以上に崖に近寄りすぎ転落した、という確信を得ながら、朝が空けていくのを知るのであった。
恩田陸の作品3作目だが、「夜のピクニック」だけが異色作だったようで、少しがっかりした。話としては面白いのだが、「夜の」が印象が強すぎなせいで色あせてしまう。

パーフェクト・プラン/柳原 慧・著

2011年12月23日
代理母で生計を立てる小田桐良江は、かつて出産した三輪俊成が母親咲子に虐待を受けている事を知り、発作的に誘拐してしまう。その事を知った田代幸司・赤星サトル・張龍生ら3人は、父である三輪俊英が投資ファンドを経営していることから、謎の組織「エニグマ」になりすまし、有望株情報を送って株価をつりあげつつ、虐待の事実を告げ、息子を誘拐でなく「保護」している立場を取る。それによって誘拐犯罪は成立せず、株価上昇から得た莫大な利益を享受する。一方、PCを通して、情報のやり取りをしていたため、ヨシュアを名乗る17歳のハッカーが、この巧妙な誘拐を知るところとなる。ヨシュアは世をさげすむ引きこもり。エニグマ達を妨害する事を最大の喜びと考え、邪魔をする。エニグマ達は、目的を達成したため、俊成を返そうとするが、出迎えは虐待母だったため、急遽幸司と良江は俊成を連れて逃亡する。裏切られたと考えた赤星・張らは行方を追い、邪魔をしたいヨシュアも気が狂った咲子をたきつけて俊成達を追跡させる。警察も介入し、ついに佐渡で俊成達を捕らえる。そこで赤星達は幸司達が裏切ったわけではなかった事を知り、警察は俊成に虐待の事実があり、命を狙っているのは、ヨシュアと母の咲子である事を知る。同時に完全に気が狂った咲子が現場に青酸カリガス入りの爆弾を持って登場、ヨシュアはそれを遠隔操作で爆破させる。咲子と張が死に、一応の決着をみるも、後日警察はヨシュアの人物像を特定し、逮捕する

34丁目の奇跡/ヴァレンタイン・デイヴィス・著

2011年12月16日
原題Miracle on 34th street /Valentine Davies
比較的字も大きく、本も薄く、子供にもわかるような文体に翻訳されているこの本だが、伝えたい中身は本物。不覚にも涙がにじんでしまった良書です。
ニューヨークの老人ホームで暮らすクリス・クリングル老人は、自分をサンタクロースだと言って憚らない。確かに風貌は彼をおいて他にいないほど、サンタクロースにそっくりではあった。まわりの大人達は気が良く優しいが、少し頭がいかれた老人と思っていた。しかし、彼の慈愛に満ちた笑顔と言動が次第に人々の心を開放させ、今やニューヨーク中でお互いに思いやる気持ちが満ち満ちていた。しかし、クリングルを快く思わない超現実主義者たちは、彼を精神病院送りにしてしまう。そんな中、一人の若手弁護士がクリングルを救出するために、彼が本物のサンタクロースかどうかを争う裁判を起こす。裁判は圧倒的にクリングルに不利かと思われたが、ほぼ全ての民衆が味方についており、最後はニューヨーク中から届けられた、彼宛ての手紙がまさにサンタクロース宛てであったことから裁判は勝利に終わる。大意は以上だが、その他にもほろっとさせられる、ハートウォームなエピソードがちりばめられており、是非とも1冊持っていたい本と感じさせてくれた。

愛のスピリチュアル・バイブル/江原啓之・著

2011年12月9日
主として女性読者に的を絞った語り口でわかるように、女性の悩みに対して処方されている。恋愛、性格、人間関係、セックスなど分野は多岐にわたるが、一貫して、「愛」を持って接する事を説いており、この手のスピリチュアル系の本にみられるような、眉唾さは全くなく、男の自分でも心を洗われる思いがする。恋愛に悩む女性には救世主的ですらある

ジャズを読む辞典/宮澤えいち・著

2011年12月2日
ジャズの歴史や、おすすめのミュージシャンやその生い立ちやディスクレヴューやお勧め音源などを紹介。日本人ミュージシャンを紹介しているので、これは珍しく、以下に記しておく。大野雄二トリオ「ルパン・ザ・サード・ジャズ・プレイズ・ザ・スタンダード」 渡辺香津美「ワン・フォー・オール」そのほかに試聴してみたいものとして、キャンディ・ダルファー「サックス・ア・ゴー・ゴー」 パット・メセニー「ブライト・サイズ・ライフ」 マーカス・ミラー「M2~パワー・アンド・グレイス」 この本を読んで、久々にジャズを弾きたくなり、また定番ミュージシャンを再度聞きなおしてみよう、と思うようになった。

セネシオ/森福都・著

2011年11月25日
ドラッグストアでバイトをする梅原司は、セネシオ(パウル・クレーの描く絵画。セネシオは野菊の意)とあだ名されるお客から、自分にナノメートル単位の移動ができるサイコキネシストだと告げられ、セネシオの伝道のもと、その力を開花させていく。この力は遺伝子工学に絶大な力を発揮し、巨万の富を得られることをバイト先の女先輩、石綿泉に伝えられ、会社を立ち上げる。しかし、一方、司のその力は、世の中にとって悪となり、司の力を排除しようとする何者かが、司にキラーと呼ばれる人物を派遣させる。もはや近づく敵の神経中枢に働きかけ、一瞬のもとに相手を動けなくさせる事ができる司にとってキラーは問題でなかった。しかし、バイト先の社員、智美の体内にサイコキネシスでクローンを作り、その子が誕生し、その子が司に勝るパワーを持ち、キラー側についてしまったため、窮地に陥る。家ごと爆破を試みたキラーは、逃げ遅れ、頭を打ち記憶喪失に。司の行方は判らなくなったが、泉と他の2人の女性、そして各々司と一度だけ関係を持ったため生まれた子供達は、力を合わせて生きて行く事にするのだった

晩年/太宰治・著

2011年11月18日
私には太宰の才能は全く理解できないようだ。これほどつまらなく、読むのを止めようと思った本はなかった。歴史に名を残す作家であるので、少しでも魅力を感じられればと思ったのに、残念でならない。
著者の処女作で短編15話からなる。タイトル同名作品はない。多分に太宰の私小説的な要素が多く、理屈っぽくもあり、人間の卑怯な部分、いやな部分を露骨にあばきだした文体にも好感が持てない。「走れメロス」の作者でもあるから、こういうエッセイではなく、物語を読めば面白いのかもしれない。家を貸した人物が完璧な怠け者でろくに働かないばかりか大きな夢ばっかり語るほら吹き。に対して溜まった家賃の催促もできない自分という大家の日常を描く、結末もなにもない「彼は昔の彼ならず。」ほか。

霊ナァンテコワクナイヨー/三輪明宏・著

2011年11月11日
霊にまつわる話を前半はどういうものか、後半はその霊体験について語っている。特に前半には良い言葉が結構多かったので、ここに記録しておく。以下抜粋。
神様は人間の宿命を60%にしています。残りの40%は人間の運命の力に下駄をあずける、本人の心がけにまかせるのです。 宿命とは、いくら今が善い人であっても前世とか先祖の因縁とかで青写真が決められるのです。その人の魂の純度が高ければ高いほど、与えられる試練も厳しいものとなるのです。その試練困難とは人によって違います。金に弱い人には金の苦労、情愛に弱い人は情愛の苦労というように。これらの困難を克服する方法は、それらの問題にあたった際に解決にあたって「美しい心・良心」を少しも曲げることなく守りながら、方法を考え処理していくということです。自分の良心・美しい心に恥じないで棲んだということが「勝った」ということなのです。
「真の成功者」とは、悪人が持っているところの願望達成に対していつも念じ続けるエネルギーの集中力と持続力を善人のままで持つということです。
運をつける4つの項目から・素直な善い心を持つこと。電車で席を譲るなど、最初は小さな事柄から始め、徐々に慣れること。そしてその時の気持ちをなるべく多くの時間、持続できるようになること。
など

夜は短し歩けよ乙女/森見登美彦・著

2011年11月4日
大正ロマネスクのような文体にドタバタなコメディタッチかと思った。登場人物の一人が天狗と称して空を飛んだ時には、本をとじようかとさえ思ったが、おもしろかった。独特の文体と奇妙なしかし魅力あふれる人物設定、加えてやはり独特のコメディ感覚がおもしろかった。全4章からなり、各章ばたばたエピソードの中に、一貫して主人公「先輩」と「黒髪の乙女」の純愛の行方が描かれており、徐々に「黒髪の乙女」が意識していくのがよい。

2012年3月18日日曜日

福音の少年/あさのあつこ・著

2011年10月28日
高校1年の永見は同級生の恋人藍子をアパートのガス漏れ火災により失う。アパートは全焼し、その日偶然に母親とケンカして永見の家に外泊していた柏木もそこの住人であり、両親を揃って亡くしていた。しかし図書室の永見との想い出のある本の中から藍子が売春をしていた証拠がみつかり、偽装殺人ということが判明。共に事件を追っていた3流記者と情報を交換し合い、大物政治家が黒幕であることを突き止める。そして、実行犯である名のしれない暗殺者と対峙することに。暗殺者から仲間になることを誘われるが断る。ほどなくサイレンの音と柏木が現場に到着するが、永見はわき腹を刺される。致命傷にはなっていない、と暗殺者は姿をくらます。
本のストーリーは以上のもの。全体的に「ゲイ」の香りが漂う。永見と柏木の描写がそうだ。16歳の少年の幼さと大人のするどさとが同居する複雑・不安定な感情などを描いているようだが、肝心の話が「この手」としては劇的ではなく、かつ提示された謎解きも何もなされないまま、といった感じだ

シャイロックの子供たち/池井戸潤・著

2011年10月21日
銀行員達の人生の悲哀を描いた作品。東京第一銀行という架空の銀行長原支店に勤務する人間を中心にそれぞれの人間の栄転・昇進・左遷・事件など業務を中心に繰り広げられる物語。部下を殴って警察沙汰にされ、今まで昇進にまい進してきた副支店長の没落を描く第一話から全十話。
支店きってのエースと目される滝野。しかし、裏では企業と癒着し、架空融資を行い売り上げを上げているように見せているだけだった「ヒーローの食卓」。銀行監査員である黒田。長原支店の100万円紛失事件を不審に思い、調べてみると、金はみつからず、支店長以下主だった役付のものが出し合って補填したことを知る。黒田は支店長を追及するが、支店長からかつての黒田の汚職を指摘され、今回の件を不問に付す「銀行レース」。

鉄道員(ぽっぽや)/浅田次郎・著

2011年10月14日
北海道美寄駅の廃線が決まり、この駅舎で何十年も一人で勤務した佐藤乙松。彼はこの駅舎で妻と暮らし、子供をもうけた。しかし、生後2ヶ月で子供はなくなり、数年前に妻にも先立たれた。廃線が近いある夜、亡くなった子供娘が生きていれば17歳の年で幽霊となってあらわれ、何一つ、いいこともなかった、乙松の人生に、すこしでもできなかった親孝行をしようと現れる。
他全8作の短編集。浅田次郎は私の涙腺を掴んでいるとみえて、相当泣けた。ぽっぽやはもちろん、次作の「ラブ・レター」や「角筈にて」は泣かされた。

宮本武蔵/司馬遼太郎・著

2011年10月7日
 今まで読んでこなかった、宮本武蔵の生涯を期待を持って本を開いたが、やはりイメージとは違った「人間宮本武蔵」がいた。天才ゆえに傲慢でもあり、自尊心もすごく強く、全てにおいて人並みはずれていた様子がわかる。興味を惹くエピソードとして、一生風呂に入らなかったのではないか、という事、姓は宮本ではなく、それは村の名前であり、村には生涯もどらなかった事、そして、新免というのが、本来の彼の苗字であること、そして、卑怯なまでに精神的に駆け引きがうまく、また用意周到であり、最大限敵の情報を集めた、2刀流が有名だが、実際の決闘の多くは木太刀で真剣を使う勝負はそれほどなかったこと、そして、武蔵をもってしても、試合は30歳以降は極力避けたことなど。

翳りゆく夏/赤井三尋・著

2011年9月30日
 主人公 梶秀和は東西新聞の記者だが、閑職に追いやられていた。東西新聞に20年前に起こった誘拐事件の犯人の娘が入社予定となり、社長じきじきに梶にその真偽の程を調査するように命ぜられる。事件の起こった横須賀の支局時代の上司である武藤や、当時の警部であった井上、現支局長野村などに助けてもらいながら調査を進めていくと、以外な事実につきあたる。20年前に起こった事件であるとはいえ、梶は、様々な立場の人物から情報を得、誘拐した人物、身代金を要求した人物、それを受け取った人物が、それぞれ別人という事に行き当たる。身代金を奪取した犯人は、その逃亡中に事故死し、計画犯は、その後小樽に潜伏、数日前に病死、そして、武藤の妻が、赤ん坊の息子を死なせ、その代わりに病院から子供を誘拐、後に自殺した事をつきとめ、また、武藤もそれを知りつつ、20年間隠してきたことにたどり着いた。江戸川乱歩賞受賞作。

木曜組曲/恩田 陸・著

2011年9月23日
大好きな著者の2冊目の本。女性作家、編集者が6人集まり、毎年寒い時期の木曜日をはさむ3日間、亡き大作家であり親戚であった時子を偲ぶ会が行われていた。今年も同じ顔ぶれが揃うが時子を殺した人間がいる、という正体不明の人物からの花束によって、彼女達はお互いに殺人者を推理しあう謎解き合戦がくりひろげられる。当初の自殺で事件は解決していたが、この中の誰もが、それなりの事情をかかえ、時子を尊敬しつつ、憎しみを抱いていた。そんな中、推理していくと、時子自身も他の集う者たちを毒殺しようとした経緯がわかり、予想外の方向に発展していく。最後は、時子が皆を殺すために用意した毒薬の溶けた水を偶然が重なり、摩り替わり、摩り替わった水をそうとは知らず、時子自身が飲み干す事になったいきさつにたどりつく。各々が偶然にも殺人者であった事を胸に秘め、めいめいが帰路につくが、その館の女主人であるえい子だけが、偶然とはいえ、とっさに、時子にわからぬように、そして取り替える事になってしまった女性にも気づかれずに水を取り替えるようにしむけた事を回想する。どんでん返し的な要素がふんだんにあり、これが落ちとおもいきや、さらなる落ちが、、、のようにさすが、恩田陸、と思う。しかし「夜のピクニック」のような青春の1ページを綴った話を期待していただけに、少々期待はずれの感があった。

右岸/辻 仁成・著

2011年9月16日
 祖父江九という人物の一生を描いた作品。
やくざの父を持ち、小学校の時、親友に自殺され、同時期に超能力に目覚め、サーカス団に入りスプーン曲げで一躍有名人となるが、TVに出たおかげで、父を探していたやくざに父を射殺される。自殺した親友の妹にふられ、それが原因となり、世界各地を放浪する旅にでる。最終的に落ち着いたパリで仲間もでき、美しい妻を娶り、アミという男の子を授かるが妻の交通事故死に直面し、気が動転し、ふらふらと車道に飛び出し、自分も事故に遭い重症、脳と左半身に傷を負う。同じく当時なにものかに息子を連れ去られ、消息不明に。傷心と事故の傷とで、記憶喪失になり、日本へ強制帰国の後、植物と暮らす、半ば自閉症気味の生活を数年間送る。その時も超能力はさらに威力を増し、自らの体や物体を空中に浮かす事ができるようになる。それがマスコミに知れることとなり、九は教祖的に扱われ、狂信者まででてくることに。一方で、茉莉(親友の妹で、初恋相手であり、一度ふられているが、あきらめきれず、九の一生を通じて、キーパーソン的に関与する)の手助けをはじめ、周囲の人物の助けもあって、九は記憶をとりもどす。以前世話になったサーカス団に身を隠しながら、超能力を手品としてみせ、サーカス団の財政的ピンチを救う。やがて、時は移り、行方不明であった息子とも再会し、サーカス団のオーナーにまでのぼり詰めるも後輩に譲り、引退へ。その後はすべての事象に感謝の念を抱き、神からあたえられた自分の一生から学んだ事柄に感謝しながら、茉莉の隣人として余生を過ごすことに。すでに体は不調を訴え、余命いくばくも無しといったところで物語は終わる。非常に長い小説だが、果たしてこれほど長い必要があったのが疑問が残る。無駄と思えるエピソードも多く、本人が「馬並みのデカマラ」の持ち主との設定だったが、そうでなかったとしても本編に全く何の影響もなかったことを考えると、残念である。考えさせられる内容のある作品だっただけに、もう少しピシッと締めた小説にできたはずなのが惜しい。

天窓のある家/篠田節子・著

2011年9月9日
さまざまな立場の女性の視点からみた悲喜交々の愛憎劇を9つの短編に収めた本書。
30を過ぎても結婚もせず、仕事もろくにせず、まるで寄生虫のような友人。自分のようにしっかりと結婚し、独立した大人の女性にしようと試みるがことごとく失敗。愛想をつかし、その友人と距離を置く。6ヵ月後、偶然再会し、友人の両親が共に介護のいる病人となり、友人がその面倒をみているという。友人は言う。「母は私が面倒をみる。結婚しないでいつまでも親元にいて、面倒をみてあげる。」とはたと主人公の女性は考える。自分の母親を兄夫婦に押し付け、日々では母のことを疎ましく思い、めったに兄夫婦のもとにかえろうとしない自分と果たしてどちらが「寄生虫」なのだろうか?=「パラサイト」他8編。全体的にホラーやサスペンスタッチの作家である。

疾走/重松 清・著

2011年9月2日
シュウジと呼ばれる主人公の15歳という短すぎる一生を綴った小説。悲惨、陰鬱、不幸から来る絶望、やるせなさなどがいっぱいにつまった、重苦しい話であるが、かろうじて著者の筆力で先を読ませる。シュウジの兄シュウイチは中学は成績優秀だが、高校に入って落ちこぼれる。カンニングがばれ、高校に行かなくなる。あげく夜徘徊し、放火をする。つかまり街に知れることとなり、兄のせいで一家は離散、シュウジは小学高学年から中学在学中ずっといじめつづけられる。一方多感な青春時代であり、アカネに惹かれアカネに誘われるままにベッドを共にし、アカネを妊娠させる。アカネの亭主の極道にばれることになり、シュウジは極道からリンチ的な性的虐待を受け、アカネも同様の扱いを受ける中、極道を手にかけ、殺してしまう。シュウジは東京に逃げ、アカネは警察に自首する。逃げた先の新聞配達店でも給料詐取や、親しげに近寄ってきた同僚の老人にもだまされ、給料を全額盗まれる。全てのタイプの不幸をしょってきたシュウジにとっては、またおこった不幸。それでも人を信じ、繋がっていたい、という気持ちがあり、小学時代から好きだったエリを頼り、会う。エリは叔父に性的暴行を受けており、エリは自虐的になっていた。その現場にシュウジは行き、叔父を刺してしまう。そしてエリと一緒に逃亡する。逃亡のさなか、警官の放った銃弾に倒れ、生涯を終える。
総ページ数500近くの1ページ2段形式の超長編小説

電気紙芝居殺人事件/辻 真先・著

2011年8月26日
初老の鬼堂はTV畑の一線で活躍してきた。その頃の同僚の死をきっかけに当時のシナリオライターの投身自殺事件に疑問を持つようになる。やがて鬼堂はそれは仕組まれた殺人事件であると確信し、まだ存命である殺人者に復習をとげる。また殺人者の息子も鬼堂の親身にしているめぐみを無残に一方的に捨て、新しい彼女と結婚しようとしたため、めぐみに刺されることに。現場にかけつけた鬼堂がとどめを刺す事になる。以前からしきりに出版物を出すように薦められていた出版社の女性に、これらの事実を小説として書き残し、出版するように要請しながら、鬼堂は末期のガンでこの世を去る。
普通の推理物でありながら、主人公が探偵の立場から殺人者に立場を換え、さらに執筆の小説で、出版社の女性に自身の殺人を突き止められる、という筋書きを用意した小説家の立場になり、その本が世にでるころには、自身は亡くなっている、という設定の飛躍がおもしろさを出している。

モリー先生との火曜日/ミッチ・アルボム・著

2011年8月19日
原題 Tuesdays with Morrie/Mitch Albom
病魔に冒され、余命いくらもない老恩師との毎週火曜日の面会によってもたらされる、教え子である著者とモリー教授との最後の論文。そのテーマは人生、愛、をつづったドキュメンタリ。
毎週火曜に開かれるミーティングでモリー先生は教え子のミッチに人生について何が大切かを毎週教授してゆく。その内容は、「自分を許すこと」「金の使い方~食料は必要、スポーツカー欲しいだけのもの。同じじゃない。」「いかに死ぬかを学べは、いかに生きるかがわかる」と読むものにも共通して生きるうえで必要ななにかを教えてくれている。

火車/宮部みゆき・著

2011年8月12日
自己破産をした関根彰子が突然姿を消した。 現在休職中の刑事、本間は、彰子の婚約者で従兄弟の息子から警察沙汰にせず、ひそかに行方を捜索してほしいとたのまれる。失踪したのは、彰子自身のクレジットカードが作れないという事が判った日の次の日だった。当初、安易な失踪と判断していたが、調査が進むにつれ、関根彰子という人物になりすました新城喬子が浮かび上がる。新城喬子もまた父が借金でサラ金業者に負われ一家離散を余儀なくされた過去を持つ。そしてそこから逃げるために別人になり暮らす事をのぞんだのだった。しかし、関根彰子もまた自己破産をしているとは知らずに彼女を殺し、今回、カードが作れない事実を知って愕然となり、さらに別の人物になるために再失踪したのだった。捜索のかいがあり、喬子が別の人物にターゲットを絞り、接触する
場面を捉えるところでエンディングとなる。普通の誰でもが落ちて行きかねない、クレジットやローンの恐ろしさを訴えた推理サスペンス。業者は架空だが、相談所や弁護士などは実名を登場させるというリアルさが著者の入れ込みを語っている。

夢の島/日野啓三・著

2011年8月5日
1985年作品。
境昭三は建設会社に勤務する妻をなくした50代。東京に林立する高層ビルをながめるのも好きだが東京湾にできた埋立地にも哀愁にもにた不思議な感情を覚え、惹かれて行く。埋立地を散策するうち、一人の女性と出会う。林陽子は昼間をマネキン相手のショウウィンドウディスプレイの仕事をし、夜になると別人格が現れ大型バイクをあやつる妖艶な女になる。夜の陽子とその弟に連れられ、ある日、昭三はお台場にわたる。(お台場は現在のものではなく、ペリー来航時、幕府が作り、使われないまま廃墟と化した歴史のもの)そこでは、東京とは思えない原生林が生い茂り、野鳥他の動物の棲みかとなっていた。2回目のお台場に上陸の際、釣り糸に足をからませ、宙吊りになりしんだサギを弔い埋めるために木に登った昭三は足を滑らせ、自らが逆さづりになり、命を落とし、それを見た陽子の人格が一つにむすびつく。病気もよくなった陽子と弟はまたいつかお台場に渡らねばと思うのであった。

風と雲の街/西村寿行・著

2011年7月29日
超能力犬 黒犬頑鉄を中心としたSF冒険物。鳴神と去来は、突然行方をくらませた人妻を誘拐とみて捜索に乗り出す。途中、不思議な能力を持つ黒犬と出会い、頑鉄と名づける。頑鉄には普通の犬の何倍もの匂いを嗅ぎわけさらに世代を超えて匂いを記憶することができたり、恐怖と感じる本能をにおいのように嗅ぎわけることができた。頑鉄は次々と人妻誘拐事件を解決してゆく。鳴神達が追っている人妻事件はしかし、大掛かりな国家的犯罪にからんでいることがわかる。その事件は戦後直後にさかのぼり、特殊研究所の所長の息子、その娘こそが鳴神達の求める人妻であり、その研究所で研究されていたのが、頑鉄のような特殊犬の開発であった。鳴神達は頑鉄とともにCIA直下のG機関に乗り込みとらわれていた人妻を無事救出し、その成果が認められ、研究所お抱えの危機管理チームとなる。

悼む人/天童荒太・著

2011年7月22日
坂築静人は、見ず知らずの亡くなった人々を追悼して全国を渡り歩いており、密かに「悼む人」と呼ばれ、ネットでは名前が知れていた。生前その人は誰を愛し、誰に愛され、どのように人々に感謝されたかという事柄のみをきいてまわり、その人がどうして亡くなったか、という事に一切触れない彼の行為は、人々に賛否両論で受け入れられていく。当初、数日間の旅程であった彼の悼みの旅は、いつしか数年間、自宅に帰って程に。物語は、静人の悼む旅を中心に同調する女性の出現、最初は静人を偽善者と決めつけた記者が、様々な事件の後に改心していく過程、そして静人の母、巡子が、ガンに冒され余命数ヶ月で、徐々に衰弱していく様子が描かれる。最後は、唯一の理解者である奈儀倖世と関係を持つものの、倖世は、自分が愛される事で静人の悼む旅に支障が出る事を恐れ、又、自らも静人のように悼む人となるべく、別れを告げる。エピローグとして、巡子の死ぬ間際の話となり、死の直前、静人が母の臨終に間に合うところで終わる。

放課後はミステリーとともに/東山篤也・著

2011年7月15日
主人公の霧が峰涼を中心としたシリーズ短編もの。16歳の国分寺市在住、自分を「僕」と呼称する女の子という設定。実際に事件を解決するのは霧が峰ではなく、探偵部の顧問の先生だったり、他の先生、あるいは所轄の刑事など。しし座流星群の出る夜、流星群ではなくあやしく光るUFOが目撃されるが、実はそれは夜光塗料を塗ったカイトだった。そのカイトの糸を使って妻の首をしめた男をみやぶる「霧が峰涼とエックスの悲劇」屋上から突き落とした女生徒はじつは途中の木でひっかかり、30分後、突き落とした本人の上に偶然落ちてきた「霧が峰涼の屋上密室」など。

乱心タウン/山田宗樹・著

2011年7月8日
「マナトキオ」と呼ばれる富裕層だけに許された1km四方の専用街。周囲を高さ3mの塀に囲まれ、進入するには、4箇所あるゲートを通らなければならない。そこには、監視員が常駐し、マナトキオ中にある防犯カメラで監視され、セキュリティは完璧だった。物語は3つの視点から語られる。一つは富裕層でありながら、ひとくせある住民たち、そしてマナトキオの監視員紀ノ川康樹。彼には笹川景子という彼女がいるが、金持ちの男に景子は乗り換えてしまう。そして、マナトキオに出入りする業者サカエ消毒の高梨悠介。彼には妻と息子がいるが、息子が白血病にかかってしまう。幸い、治療が功を奏し、息子は快方に向かう。マナトキオ内に侵入者が入ったといううわさが広まり、その情報が暴走し、殺人鬼が侵入したことに。その殺人鬼はサカエ消毒の人間となり、高梨の同僚が無実を被り、解雇されてしまう。高梨は誤解を解くためにマナトキオの住民に直談判することに。しかし、住民は殺人鬼がもどってきたと勘違いし、大混乱に。一方、金持ちに乗り換えた景子だが、底の薄い性格につくづく嫌気が差し、康樹とよりをもどすことに。一方、マナトキオの住民は、不審者のうわさを契機に、どんどん壊れていく。そんな住民を冷ややかに見つめる住民砂原。彼はテロリストだった。マナトキオ内に核爆弾時限装置をセットし、国外逃亡する。最後は、まもなく爆発するマナトキオなのに住民は誰も気づかず、相変わらずの毎日を送る。というエンディング

ツアー1989/中島京子・著

2011年7月1日
口伝に「迷子付きツアー」と呼ばれ、ひそかなブームとなったツアーがあった。参加者の一人が海外旅行中にいなくなる。ツアーの参加者達は「おかしいな」と思いながらも何事もなかったかのように帰路に着く。そんなうわさがうわさを呼び、ミステリアスなツアーとして人気を呼び、広まった。仕掛け人は格安航空券で急成長したある旅行会社のある社員だった。ありきたりの旅では満足しなくなったバブル時代を象徴する出来事だった。
ストーリーは別にこれ以降展開するわけではなく、この「何かを忘れてきた」ような不思議な感覚にとらわれながら、別々の主人公が別々の人生を歩んでいく、その様を4章で構成してある。これらは、月日を別にそれぞれ小説誌に掲載されたもので、単独でも成り立っているし、通して読むことも可能だ。とにかく、いままで感じたことのない文体というか雰囲気を持ち合わせた作品だった。(蔵書)

かまいたち/宮部みゆき・著

2011年6月29日
江戸中期の江戸の町を舞台に繰り広げられる短編4話。「かまいたち」と呼ばれる辻斬りが相次ぎ町民を震え上がらせていた。町医者の娘おようは偶然その辻斬り現場を目撃、かまいたちの人相を目撃する。そのかまいたちが自分の住む長屋のむかいに引っ越してきて、恐怖は募る。逃げていても仕方ないと腹を決め対決すべく、かまいたちに迫るも、それはおようの勘違いであった。おようが「かまいたち」と思った新吉は町奉行配下のもので、新吉が手にかけた相手こそが乱心し、夜な夜な町をうろつく旗本であった。 他「迷い鳩」「騒ぐ刀」は著者のごく初期の作品で、デビュー前に執筆したもの。超能力を持ったお初という16の娘を主人公とし、透視能力で殺人事件の解決の糸口を掴む「迷い鳩」 妖刀に対抗すべく作られた「守り刀」。夜な夜な不気味な泣き声をあげるその守り刀を偶然手に入れたお初は、守り刀の秘密を解き明かしていく「騒ぐ刀」など

ダブルフェイス/久間十義・著

2011年6月22日
渋谷警察署の刑事の活躍を描いた作品。
円山町でOL女性の死体が発見され、被害者は一流企業のOL。しかも売春をしていた。捜査線上に浮かんだのは、ヨガ講師田代だった。被害者は田代のヨガ道場に通っていた経歴があり、田代のセックスヨガのパートナーであることが判明。しかし、田代の背後に大物政治家が見え隠れし、単なる殺人事件ではなく、田代所有の口座を裏献金取引口座としており、被害者は田代と大物政治家を引き合わせ、あげく邪魔者とされ殺害されたのだった。警察上層部は田代犯人で事件の巻く引きを狙うも、捜査を指揮する戸田警部はわざと事件黒幕の存在をマスコミにリークし、事件は大問題に発展、大物政治家に捜査の手がのびる結果となった。  物語の別線として、根本刑事の恋人が変質者に人質監禁されるという事件も発生して物語を面白くさせている。

御宿かわせみ・鬼女の花摘み/平岩弓枝・著

2011年6月15日
徳川幕府中期ごろの江戸の町を舞台に繰り広げられる、人情推理もの。武士の神林東吾が主人公であるが、妻るいが宿屋の「かわせみ」を経営し、そこに関連する人物が中心になって江戸町人が繰りひろげる犯罪を推理、解き明かしていくもの。殺人事件から、ちょっとした勘違いから起こる「騒動」まで多彩な「事件」を広く推理する、短編連載のシリーズもの。特筆は、江戸八百八町の町の地理関係が事細かに記述されており、著者はまるで、江戸時代に生きていたかのような詳細ぶりだ。

僕の妻はエイリアン/泉流星・著

2011年6月8日
高機能自閉症という病気を持つ妻との生活をコミカルに綴ったドキュメンタリ。言葉を額面通り受け取ってしまい、思いがけずふさぎ込んだり、相手の顔色をうかがわない究極のKY、自分をかざろうと全くしない、ちょっとでも予定が狂うとパニックをひきおこすなど、一見普通の人にもよくある性格だが、微妙にアブノーマルなレベル、IQは通常の人より高いのだが、人の気持ちが理解できないといった難しい伴侶との日常生活を書いている。驚いたのは、あとがきを読んで、著者が実は妻本人であった、ということ。

夜の蝉/北村薫・著

2011年6月1日
20歳のボーイッシュな女の子「私」と噺家探偵円紫師匠の日常の素朴な謎を解く推理物。私の友人正子のバイト先の書店で高額なカバー付の本が前後逆さになって数冊並んでいた。それを悪質な万引きとあばく円紫師匠。箱と中身を入れ替えて購入し、その後中身が違うと言って返品し、かつ本物は急いでいたので別店で買った、と言えば返金してもらえる、という仕組みの「朧夜の底」他タイトル作を含む全3作品

証言・臨死体験/立花隆・著

2011年5月25日
 全編が、臨死体験をした、有名人や著名人の他、一般の人の体験も多く含み、平等性や、信憑性を高めたインタビュー形式となっている。
 それぞれ全く同じ体験の人はいなかったが、非常に似通った体験を全員しているところが、興味深い。ほぼ全員に出てくる「三途の川」「お花畑」そして、全員が100%感じているのが、臨死中、大変気持ちよく、一切のストレスから開放され、満ち足りた気分になったこと、そして、体験後、死への恐怖感が全く無くなった事、などがあげられる。特に最後の2編のインタビューは心に残った。
「生きるのも神の命。死ぬのも神の命。こんな楽な生き方はない。」や、羽仁進氏のインタビューは恐らくそれが真理なのだと直観させられる。
 本書は借り物でなく蔵書。

13歳の黙示録/宗田理・著

2011年5月18日
 前回読んだのと同じ少年犯罪にまつわる話。文体が優しい分、「天使のナイフ」に劣るか、とおもいきや、著者の方がベテラン、1枚上手であった。ストーリー展開にもう一工夫が効いていて、こちらに軍配が上がる。
 中学教師の秋元千佳は、同じ教師の内山と数日後挙式というところで、教え子の幸雄に刺殺される。幸雄は札付きで、小学校から申し送りがあった子供だが、千佳は何故か目が離せず、何かとめをかけていた。当初、殺害は千佳に恋心を寄せていた幸雄が結婚すると知って逆恨みの末、殺害に及んだと推測されたが、事実は意外な過去を持ってあばかれる。13年前、女性教師が生徒に刺殺される。その教師を刺したのは、内山だった。その教師には、生後まもない幼子がおり、それが、成長した幸雄だった。事実は、幸雄は内山を殺害しようとナイフを抜き、内山に近づいた。その内山との間に千佳がいたことも目に入らぬほど、憎悪は増していたのだ。自分をかわいがってくれた教師を刺そうなどとは、幸雄は全く考えていなかったのだ。
 本作は、少年法の加害者側に不等という事柄のほかに、なにより「殺人」はよくない、という単純明快な戒めを、残された遺族の凄まじい現実、一人の命をうばうことで、どれだけの人間の人生を狂わせてしまうか、ということに焦点があてられている。

天使のナイフ/薬丸岳・著

2011年5月11日
 4年前、新妻を殺された主人公檜山は、それが、中学生3人の犯行であることを知って怒りをあらわにする。そんな中、その犯人グループ(沢村、丸山、八木)の沢村が殺される。そして、丸山が電車ホームから突き落とされる。そして八木も殺された。嫌疑は檜山に自然とむけられる。これらの事件の背景に迫っていくと、妻が中学生の頃、人を殺して少年院に入所していたこと、そして、妻は通り魔的に殺されたのではなく、中学生をうまく活用し、殺させた首謀犯がいることがわかってきた。そして、主犯は、ホームに突き落とされたかのように狂言した丸山と、檜山の勤務するコーヒー店店員の歩美であることがわかった時、丸山、歩美がコーヒー店に人質を取って立てこもる。檜山が店内に入り、丸山に殺害されそうになったその時、歩美が丸山の犯行を妨害し、丸山を裏切る形で逮捕となった。歩美は檜山に近づくためにアルバイト店員になったが、自分が幼い頃病気で手術費を檜山の妻が募金して調達してくれたこと、そして妻がかつて自分の父を殺した犯人でありながら、謝罪のために我が家を訪れようとしていたこと。などを直前に知って、丸山を阻止したのだった。  少年犯罪法にスポットをあて、少年犯罪者擁護に過ぎる法律ではないか?と読者を考えさせる一編である。

白く長い廊下/川田弥一郎・著

2011年5月4日
 38回乱歩賞受賞作。麻酔担当の窪島が行った手術終了後、患者の呼吸がとまり、翌日死亡した。麻酔の手順に全く問題を感じなかった窪島だが、まわりは、暗に窪島の人為的ミスで患者を死亡させた、という空気に支配されていた。そんななか、薬局部のちづるが窪島の濡れ衣を信じ、かつミスではなく殺人であると主張し始める。調査の結果、当日ストレッチャで患者を運んだ榊木という看護婦と患者の妻の共同犯行という線が浮かび上がる。窪島は警察に一部始終を告発し、病院を追われることになる。また、病院側はこの事件が明るみに出て、評判ががた落ち、結局以前から売却を打診してきていた新郷理事長に売却し、名前を一新し、出直しとなる。そして信頼していたちずるも、窪島に隠している事実があり、恋人であるちずるに裏切りを感じた窪島は全てをすて、無医村の孤島へ渡り、そこで生活を始める。1年後、ちずるが島を訪ね、新郷が自分の母親の恋人であること、学生時代から面倒をみてもらって、新郷に恩義を感じている事を暴露、しかし、窪島を愛していることを打ち明けにやって来、窪島も近いうちにこの島に渡ってきてほしいことを伝え、物語は終わる。

虹/原田康子・著

2011年4月27日
 1979年の作品。
三千子は阿寒湖にて自殺未遂の男、ジャズピアニストの文夫を助け、再度の自殺を図らないか様子を見ているうちにほのかな好意を抱く。また文夫を見張ってくれるよう三千子に依頼をしたジャズサックスの片田から、求婚される。片田をまた好ましく思っていたが、文夫への好意が愛と知って、片田との別れを選び、片田もまた文夫への気持ちを知って、身を引く事を決意する。自殺の復帰コンサートを終えた文夫はしかし、発作的に自殺してしまう。事後、数ヶ月して、三千子は久しぶりに片田と会う。文夫の回想で話は終わる。
 ジャズプレイヤーとの恋、の設定だが、ジャズ的な話はほとんどない。加えて、人間の感情を綴る文がほとんどなく、いまいち感情移入がしにくい。恋こがれる、というより、自分の気持ちが自分でわからない主人公が、なんとなく、出来事にふりまわされながら、その恋を選ぶような感じ。

月光スイッチ/橋本紡(つむぐ)・著

2011年4月22日
 主人公香織と不倫相手のセイちゃんとの仮の2ヶ月弱の新婚生活中におこるエピソードを綴ったもの。セイちゃんの本妻が出産で北海道に帰省中、セイちゃんの家にあがりこみ生活をすることになった。セイちゃんはマンションのオーナーであり、そのマンションの最上階に住んでいる。階下に住む住民との間におこるほんのりとした事件などを通じて香織が体験したこと、といってもスゴイ体験などはなく、むしろ、極普通の出来事が淡々と綴られていく。暇にまかせて散歩し、ついた先のコンビにで買い物をするも、財布を忘れ、困っていたところに、お金をはらってもらい、意気投合した弥生と、実はコンビに店員が弥生の弟の睦月であり、こちらとも仲良しに。はたまた、マンション住民の吉田さんの娘のハナちゃんが偶然父の居所を突き止める。彼女は私生児。まだ幼いハナちゃんに付き添い、ハナちゃんの父に会いに行ったり。最後は不倫が奥さんにばれて、別れさせられる。 特に示唆にとんでいる話でも、重たい中身を持つ話でもなんでもない。ただ不思議な面白さはあった。

永遠(とわ)の島/花村萬月・著

2011年4月15日
 日本海の中ほど、京都の沖に大和堆と呼ばれる大陸棚のようなもの、その中心に匂島がある。その島へ近づく船舶はその他、人間などが、まるでバミューダのように消滅する。その謎を解くべき主人公の洋子、その雇い主である教授、そして助手、そして、ただ一人、匂島に上陸出来るといわれている漁師の政のメンバーで匂島に向かう。船は途中、不可思議な体験をしたりしながら進んでいく。最初に睡眠中、教授が腐りながら死亡する。その後、助手が空中で止まったまま、徐々に異次元に吸い込まれて消滅する。洋子はこれらが全て政によるものと仮定するが、事実は島にいる「シマ」と政が呼ぶ、機械であり、「存在」がなせるわざであった。そして、2人は島に上陸、この島にいる間は人間は若返り、傷など疾病なども徐々に治癒してしまう効果があった。こうして、2人の生活が幾億日も過ぎ、もはや地球上に洋子と政以外の人間がいなくなっても、2人は暮らし続けていた。珍しく、冒頭や中間部は、今後の展開を期待できそうな予感で読む気も増すが、ラストになると、そのいい加減な結末に急速に興味が薄れるパターン。

風の棲む町/ねじめ正一・著

2011年4月12日
 山形県庄内酒田市を舞台に、昭和50年代に起こった酒田大火災事件を背景に物語は進む。主人公の武藤拓也は、この火災の年高校2年。将来の希望も無く、未来を決めかねていた時、火災に遭遇し、市内で手広く本屋を経営していた父の4店舗中2店舗が火事で焼けてしまう。そこから復興していく途上におこる悲喜こもごもが綴られ、ようやくと思った矢先に父が脳溢血で倒れ、拓也は初めて父の有難さを実感し、家業をついで本屋になることを決意する。時は流れて数十年。妻も子もいる拓也は、常務となり、日々本屋の仕事に奔走するのであった。
 書いてしまえば、これまでだが、なんとなくほんわか、すがすがしい読後であった。また拓也の年齢が自分の2歳上、と言う設定も親近感を覚えた。

江戸川乱歩全集25「怪奇四十面相」/江戸川乱歩・著

2011年4月8日
 全集最終巻で、乱歩の少年向け明智小五郎と少年探偵団シリーズの最終話になる。それまでの二十面相が自ら改名し、四十面相と名乗るあたりや、文章のあちこちに幼稚さがでており、さすがに少年向け。しかし、内容は以外に面白い。後の推理作家に相当影響を与えたであろうトリックなどの手法が満載であるが、それよりも、物語中にでてくる東京の街並の描写が趣があっていい。千代田区にうら寂しい屋敷町があったりと、そんな東京もあったのかとノスタルジックな気分になれる

11の物語/Patricia highsmith・著

2011年4月4日
 文字通り11編の短編集。「かたつむり観察者」など、著者は相当かたつむりという動物が嫌いなようだ。「クレイヴァリング教授の新発見」は、無人島に生息する全長十数メートルのカタツムリを発見するも、食べられてしまう話。前述の「かたつむり観察者」は家中にカタツムリを繁殖させたはいいが、多すぎていどころがなくなり、大量のかたつむりに窒息死する、という話。これもネット購入したが、保有したいほどの本ではなかった。

怪奇小説集/遠藤周作・著

2011年4月2日
 「三つの幽霊」他全15作品を収録。以前読んで、左記の物語が忘れられず、ネット購入した。今読んでみると、さほど怖くは無いが、以前はだいぶ怖かった思い出がある。熱海のふらっと入った旅館での出来事が秀逸。作者の後書きの日付が昭和45年。そして、その中に10年前に書いたものとあり、さらに、作品中、熱海を訪れたのは1昨年前というから11、12年前の昭和34年、35年辺りになろうか、という昔。自分の生まれる前の話であるところが、なんともノスタルジックな感じを持った。

ひとがた流し/北村薫・著

2011年3月26日
 前半は、少し、「渡る世間~」的な雰囲気があったが、後半は感動を持って読み終えた。
千波はアナウンサー、牧子は小説家、美々は編集者、この3人は幼馴染。美々のだんなは写真家、牧子はばつ一、千波は仕事一筋の結婚暦なし。日常に起こりえるエピソードが綴られていく。牧子の娘さきは大学に受かり、一人暮らしを始める。牧子は寂しく思う。美々の娘玲は、夫の実の子ではない、それを偶然玲本人が知ってしまう。千波はやっとやってきたアンカーの座を自らの病気のせいであきらめなければならなくなる。しかもそれは不治の病であった。と同時にプロポーズを受ける。残り少ない余生と知りながら、結婚を承諾する。だんだん衰弱していく千波、中学の頃牧子と冒険に出た夜の変電所の話、輝く昔の思い出、もうどんなに望んでももどることのできない夏。物語はこれらの切ない、しかし、輝く思い出とともに千波の死を迎え、それを送る残された人の思いを綴って終わる。

2012年3月11日日曜日

その木戸を通って/山本周五郎・著

2011年3月19日(土)
 江戸時代を中心に描かれた時代小説。同名作を含む7作の短編集。
ある日、平松は家に帰ってみると、見知らぬ娘が屋敷にいた。女は記憶を全く失っており、自分の名前すら覚えていなかった。平松は石高の高い鹿島家との縁談も決まっていたが、娘の不思議な安らぐ魅力に自分の嫁として迎え入れた。月日は流れ、娘は「おふさ」という名で呼ばれ、平松の間に子供をもうけた。この頃になると、おふさはわずかながら記憶の断片を思い出すようになっていた。平松は、おふさが完全に記憶を取り戻すことで、今の生活が壊れるような気がしてならなかった。その予感は的中する。ある日城中から帰ると、おふさは、姿をけしていた。誰も行方を知らず、子供だけが、裏木戸から、ふらふらとおふさが出て行ったのを見ていた。方々手を尽くし、おふさの行方を捜したが、おふさがみつからない。おふさは完全に過去の記憶がもどった、そして、その生活に帰っていったのだ、と平松は思った。と、同時に、自分との間に子をもうけるまでに至った、現在の生活をきっと捨てはしないだろう、きっと、その木戸をくぐって、ひょっこり舞い戻ってくるにちがいない、とも思うのであった

奇跡の人/真保祐一・著

2011年3月12日(土)
 相馬克己は8年前事故に遭い、脳死状態から奇跡的に回復をみせた文字通り奇跡の人と院内で呼ばれていた。8年間の入院とリハビリ生活を終え、社会復帰を果たすが、相馬本人は8年前以前の記憶が全くなくなっていた。父母の記憶はおろか、全ての過去の記憶がなく、ふと以前の自分を知りたくなり、調査を開始する。次第に明らかになっていく事実は、暴走族のようなチームを作る不良であり、付き合っていた彼女の、浮気した相手を殴り、大怪我を負わせ、逃げる途中に車で人をはね、死亡させ、その時事故を起こし、病院に搬送された、という認めがたい忌まわしい事実だった。以前の彼女の聡子を訪ねてその事実を知った相馬は、そのショックで過去の記憶が覚醒するが、心の中で現在の相馬と過去の相馬が葛藤する。そんな中相馬のせいで火災が発生し、子供2人が取り残される。現在の相馬が炎の中突入し、2人を助け出すが、相馬本人はまた重症をおい、脳死状態に。今度は母の代わりに元彼女聡子が相馬の回復を信じ、看病する、という事で話は閉じる

虹は消えた/佐藤愛子・著

2011年3月5日(土)
 自由奔放に男性遍歴を重ねる大女優朝川環を母に持つ麻美。彼女もまた女優だった。麻美はそんな母を許すことができずにおり、また自分はそうならないと心に誓っていた。麻美は結婚していたが、若い頃に出会い、恋に落ちた一夫が忘れられずにいた。そして、ついに一夫と不倫に走る。そんな麻美を母も含めまわりの人は反対する。麻美も今や大女優、マスコミの目もうるさいからだ。しかし、まわりの反対が強いだけ二人は離れがたくなる。結局、麻美にも母と同じ血がながれている。というストーリー。
この小説もいわゆる、「だからどうした」という「落ち」がない。だからどうなった、だからこうなんだ、といった事がなく、唐突に終わる。内容がなく、何とも不思議だ。

かりそめ/渡辺淳一・著

2011年2月26日(土)
 久我と梓のw不倫の話。二人は8年前から不倫関係。ある日、梓が眼球摘出をしないと、命にかかわる病気になり、梓は悲観して自殺する。その後久我は梓の娘と、一度会い、それらの事実は知る。そして、二人の関係が終わる。
 官能小説家で有名な著者だが、特に性描写が厳しい事もなくその点はすんなり読めるが、話自体にあまり内容がない。一言でいえば、不倫して、相手が死んで途方に暮れる。これだけである。何の示唆もない。

お目出たき人/武者小路実篤・著

2011年2月19日(土)
 主人公は、ほんの一目あった近所の娘鶴を好きになり、関係者を通じて、求婚するも、ことごとくことわられ、最後に鶴は他人と結婚してしまう。
言ってみれば、これだけの話。いわゆるストーカーのような主人公の話であり、ほぼ全文主人公の心の声や心情を描いているが、とくに話にひここまれる、と言った内容のものではなかった。他、後日談や、その後的に付録作品が5編ついている。

三人関係/多和田葉子・著

2011年2月13日(日)
 同名小説と、「かかと失くして」という2短編からなる。文体を長々と続ける特長がある作者。精神障害を持った人に多くみられるような文章の書き方だ。おまけに2作とも抽象的で、捕らえどころがない。
 見知らぬ町に嫁いできたが、一度も夫に会ったことがなく、町の中を様々訪れ、奇妙な人、場所に出会う、最後に夫は「死んでひからびたイカ」だった、「かかと失くして」。バイトで入ってきた、綾子が、自分の好きな作家と知り合いであること、そして、綾子がその作家の家を訪れ何を語り、経験したかを聞く事が人生の全てになっていく主人公。しかし、綾子の話は嘘であり、しかし、それでも綾子の話が聞かずにはいられなくなり、そもそも、綾子、という人物が本当にいたのかも怪しい、という「三人関係」。何を示唆しているのか、何が言いたいのか、全く判らない作品。ある種のキモチワルさがある。

三人の夜/仁科透・著

2011年2月8日(火)
推理小説というより探偵小説に近い。企業間の巨額横領疑惑が持ち上がり、須山、瀬木、平坂、辻家の4人で証拠隠滅をはかり、須山が隠しマンションで隠蔽工作中に殺される。警察は、隠しマンションの存在を知っている他の3人の中に犯人がいると的を絞り、操作を開始する。事件当夜、瀬木は多くの証人のいる会食に、辻家は箱根の別荘へ、残る平坂だけがはっきりしたアリバイがない。刑事達は、現場検証やアリバイを裏付けるために奔走し、ついに辻家の箱根別荘を抜け出し、車を使ったトリックで須山を殺害したことを突き止める。
正直に言うとあまり面白くない作品だ。ひねりもなく、どうやらセミプロ的な著者のようだ。金持ちの道楽で出版したとしか思えない。

はるかニライ・カナイ/灰谷健次郎・著

2011年2月1日(火)
 沖縄県の渡嘉敷島という南の離島で暮らす一家の自然と愛に囲まれた日々の暮らしを描く物語。童話作家だけあって、文体がやわらかく、圧倒的に読みやすく、理解しやすい。本書は、小学生新聞に連載されたもので、読者層を小学生に絞ってあるせいもあるが、とても判りやすく、自然の大切さ、人を思うことの大切さを気づかせてくれる。心に留めておきたいフレーズがたくさんつまっている作品。ストーリーに、これと言った展開はなく、淡々と日々の小さな事件を取り上げているだけだが、全てが示唆に富んでいて面白く読めた。

サヨナラcolor/馬場 当・著

2011年1月25日(火)
 外科医の佐々木正平は、学生時代のマドンナの未知子を患者として迎えた。彼女はステージ3の胃がん患者だった。正平は、そんな彼女に学生時代から好意を寄せており、久しぶりに再開した彼女の病気をなんとしても治そうと決意する。陰日なたに彼女の支えとなり、その熱意は彼女の気持ちを動かし、ついには彼女からプロポーズを受けるまでになっていた。彼女の手術は成功したが、逆に正平が隠し続けた自身のがんが悪化、正平は亡くなってしまう。

ひまわりの祝祭/藤原伊織・著

2011年1月18日(火)
 自殺した妻の英子が、未発表のゴッホの作品を隠し持っていたことから、見つかれば時価数十億とも目されるため、2つの勢力による争奪戦に巻き込まれる形となった主人公の秋山。秋山は将来を嘱望される画家志望で、妻は美術館司書だった。最後は争奪途中のトラックごと秋山が炎上喪失させてしまう。
 あまりおもしろくはなかった。主人公がインテリが過ぎる。そのため、セリフが非現実的なほど、文学的で、著者は主人公のセリフを通してクレバーさをアピールしているようで、返って間抜け感が漂う。従って、文体が読みにくいためスピード感にも欠ける。

クライムマシン/ジャック・リッチー・著

2011年1月11日(火)
原題:The CrimeMachine and Other Stories/ Jack Ritchie
18編からなる、短編集。ジャック・リッチー自身、短編しか書かなかったらしい。殺し屋が、タイムマシーンを作ったと言う男に巧妙にだまされる「クライム・マシーン」。男の経営するカジノに毎晩やってくる天才数学者を名乗る男。必勝法をあみだしたと言い、徐々に毎晩の換金額が上がっていく。ある日、数学者は、男に金を要求。これをのんでくれば、二度とあらわれない。必勝法などなく、最初から数学者は男をだますために、勝ったようにみせかけていたのだった。そうとは知らず、男は殺し屋に数学者をころさせてしまい、殺し屋はあっさりつかまり、何もかも白状してしまう「ルーレット必勝法」など。

黄色い髪/干刈あがた・著

2010年12月25日
 主人公夏実は中学二年。ふとした事からいじめを受けるようになった。ある日給食に彫刻のけずりかすを混入された事がきっかけになり、登校拒否となる。母の史子は懸命に夏実を登校させようとするが、返って逆の結果になり、苦しむ。夏実は、家に閉じこもるばかりでなく、数日おきに外泊するようになった。霞市という住んでいる地域から1時間ほどの原宿のライブハウスなどにいりびたるようになる。そこで様々な人間と出会い、自分は何故今ここにいるのか、何故登校拒否になっているのかを自問するようになる。
 物語は夏実がこれらのうよ曲折を越えて立ち直り、やがて登校し、自分の将来を考え、高校進学ではなく、就職の道を選ぶエンディングを向かえる。勉強とは何か、いじめを受けた子を持つ親の考える事、そして、どう子供と接していけばいいのかなどが描かれている。
 このごろよく目にするいじめ、非行などを題材にしているが、著者は実際、若くして命を絶った人の手記などを読み書き始めたようだ。読中、どうしても気分が暗くなりがちであるが、考えさせられる点が多かった。

百日紅の咲かない夏/三浦哲郎・著

2010年12月10日
 原題は冷夏であるという意味。=異常気象=特別な年という意味を持たせている。
 主人公の比佐と、十数年振りに再会した弟の砂夫の身におきた出来事を綴っている。十数年振りに再会し、週に一度泊まっていくまでに兄弟の絆を回復させていた。砂夫は、住み込みの修理工で、叔父の自動車工場に勤め、そこの娘鳥子に好意をもたれる。一方、比佐は、悪徳商事に祖母の財産が狙われていることを知る。ついに悪事が露見し、ショックで祖母は倒れ植物人間になる。祖母を追い込んだ商事は倒産するが、比佐はその元営業に次第に惹かれていく。砂夫も次第に鳥子に惹かれていくが、整備士の藤夫が横恋慕する。比佐は、ついにその元営業の北尾にプロポーズを受けるが、自分の心の中に砂夫しかいないことを悟り、愕然としながらも、プロポーズを断る。一方、砂夫も鳥子を好きでいたが、恋愛に発展するほどではなく、単に従妹としてであり、むしろ気持ちは姉の比佐に向いている事を悟る。そんなおり、鳥子が無理やり酒をのまされて、藤夫の手に落ちる。それを知った砂夫は藤夫を刺し殺す。人を殺してまで生きていたくない砂夫は、姉に相談しに行き、比佐も砂夫以外考えられない、ならば一緒に死ぬまでと思い、二人で集団自殺を決行する。要するに兄弟の禁断の愛に苦しみ、死を選ぶまでの道程が描かれている。

告白/湊かなえ・著

2010年11月25日
 主人公の中学教師森口悠子は、学年最後の終業式の当日、ホームルームの時間、生徒を前に切り出した。今日で教職を辞めること、それは、娘の死が直接の原因であること、そしてその犯人はこの中にいる事、その犯人の生徒には、HIV感染血液を混ぜた牛乳を飲ませたこと…。この事実を時間軸を多少前後に変えながらも様々な人の観点から語らせたスタイルで各章が成っている。犯人生徒のうち一人Aは、来学期から教室に来なくなり、ひきこもり、やがて、母親を殺す。もう一人の生徒Bは教室内でいじめに遭うが、HIV感染を逆手にとり、逆に他の生徒を恐怖で支配するようになる。Bはもともと、別れた母を慕って、起こした殺人であり、母の注目を集めながらであれば、死さえも望んでいた。しかし、HIV感染牛乳は森口の狂言とわかり、絶望した生徒は、体育館の教壇の中に爆弾をしかけ、大量殺人を試みるも、森口に阻止され、逆に母親の勤める大学にその爆弾を移される。そうとは知らない生徒は起爆させてしまう。そんな生徒に「今からが貴方の本当の更正の開始だ」と告げる。

左手に告げるなかれ/渡辺容子・著

2010年11月11日
 保安士(スーパーなどの万引きを取締る私服警備員)の主人公八木薔子が、過去に不倫関係にあった男の妻を殺した罪の嫌疑をかけられたため、真犯人をさがしていくストーリ展開。代42回乱歩賞受賞作。特に斬新さは感じられなかったが、読みやすく、娯楽性があり良作と思った。最後は主人公が犯人の探偵と刺し違えて死ぬという展開が意外性があった。(死ぬ、とはどこにも書いてないが、救急車で意識が薄くなっていき、保安士の仕事を終了する定時連絡をする、夢の中という終わり方)
 ただし、推理ものにありがちな、大勢の登場人物で、真犯人を煙にまく、というタイプが感じられ、読みながら犯人探しをしようという気にはならなかった。また女主人公のテンヤンデイ的な、はすっぱな物言いがきにいらなかった。

プリンセス・トヨトミ/万城目学・著

2010年11月4日 
日本国内に大阪国という独立国がある、という物語設定。ただし、普段は日本の法律に従い、日本人として生きている、大阪国という独立したことと言えば、その象徴とも言える大阪国議事堂が、大阪城天守閣の地下にある、という事実。しかもそれは日本の国会議事堂をまねた、というより、大阪国議事堂の方がオリジナルであるという設定。建国の意義は、豊臣家の末裔である「王女」を守ること。ひとたび王女の身に何かあると、大阪市民の男性200万人が決起する。
王女は、真田大輔の幼馴染の茶子。大輔は守る立場にありながら、茶子に守られてばかりいる。ある日、大輔をいじめる蜂須賀の親の暴力団組事務所に殴りこみに行く茶子。それを会計検査院の鳥居が警察に通報し、茶子は警察に連行される。それを知った大輔の父幸一(大阪国の大統領)は、会計検査院が茶子を監禁したとして、大阪国民に総決起を呼びかける。
大阪国の人々が、総決起のサインを見て行動に移す描写がわくわくする。
このように、ストーリーを淡々と語ると味気ないが、SFというよりハートウォーミングに範疇したい作品。大阪国の存在は、父親を亡くした男しかわからない、親から子へ脈々と受け継がれていくもの、だから、秘密は決して外にもれない。
大阪国は、会計検査院の松平のの徹底した追及に滅亡を覚悟したが、松平自身、大阪出身であり、存命中、仲の悪かった父が末期に松平に何かを伝えようとしていた事が思い出され、松平は不問に伏す事に決めた。こうして、大阪国の存在は公にならずにすんだ。
ストーリの展開、設定に少々疑問符が残る箇所もあるが、おおむね楽しめた作品。

浄土/町田康・著

2010年10月28日
「浄土」という本のタイトルであって、その話はない。7つの短編から成る。SFと
ギャグ、ナンセンスがいりまじった、狂気を感じるほどの意味不明さが個性を出している。
読み始めは、かなりくだらない印象で、手に取ったことを後悔したが、最後はそれなりに読んだ。
 町内の集まりで、ふとしたことから自分が町内のどぶさらい担当になり、怒りに心頭しながら、次第に気が混乱し、狂気していき最後は投石に頭をやられ、どぶの中に倒れ意識を失う「どぶさらえ」 本当に怪獣ギャオスが現れたとしたら実際どのような事がおこるのか?をかなりシュールに描いた「ギャオスの話」など。

青空のむこう/アレックス・シアラー・著

2010年10月20日
 原題 The Great Blue Yonder / Alex Shearer
主人公のハリーはまだ小学生。交通事故に遭い命を落とし天国に行く。そこは死者の国と呼ばれ、この世に未練を残した者はここでさまようことになる。彼方の青い世界=the great blue yonderに行くには未練にけりを着けなければならない。彼は、事故にあう前に姉のエギーと口論をし、そのまま天国に旅立ってしまい、その事を気にしていた。それが、彼のこの世の未練と知り、この世に戻って、何とか姉のエギーと会い、最後に口汚く罵った事をあやまろうとする。ついに彼は最後の力を振り絞り、鉛筆で字を書いて姉と交信することに成功し、死者の国から、彼方の青い世界に旅立って行く。
 本中、おもしろいのは、死者の国からまたさらに行く「彼方の青い世界」が、また生まれ変わるための再生の場所として定義されているところだ。そこは断崖絶壁で、下には青い海ならぬ、生命の力の海であり、そこに飛び込むことによって、自分の魂は何かの生命の一部に生まれ変わるのだ、と説いているところだ。けっしてどこかの三文小説のように、誰かに生まれ変わって、あるいはまた同じお母さんの子供として生まれ変われる、などとは書いてなく、ある意味死後の世界にそんな甘い希望を持つなという警告すら感じられて、それがより現実味を持っていて良い。恐らく、この筆者の言うとおり、我々の死後は、全魂がそっくり誰かに生まれ変わることはないのだと思う。何かの一部となり、魂は生き続けるのだろうと思う。

首飾り/雨森零・著

2010年10月15日
良い作品だった。
主人公(語り手)れいと、秋(しゅう)、そしてななの3人を、幼い頃から16歳位の年齢まで描く。幼いころから小学高学年までは何をするにも一緒の三人だったが、やがて中学生となり、お互い男女を意識し始め、性に目覚め、小さい頃の三人でいたい、と望みながら、決して過去のようにはなれない事を知っていく。
きっと誰にでもある遠い昔の幼い頃の記憶などを思い起こさせてくれる文体が光る。物語背景は、山奥の寒村 虹沢というところが舞台。三人は毎日野山を駆け巡り、毎日が永遠にあると思われた少年時代。やがて中学生になり、思いは三人の三角関係となって混沌としていく。「太陽の音をきいたよ。」や「最も高い位置の太陽は、今沈み始めている。咲き誇っている最も美しい時期の花は、その瞬間も腐り始めている。」などの文章が印象に残る。
物語を面白くしようとして、おこる事件が一般の生活をしている人間には少々馴染みがないが、作者の伝えたい事はよくわかる。
物語は、ななが16の年に病死し、それ以来ぶっつりと三人の関係が終わり、10年の時が経過、4年前に秋の乗った船が難破し、れい一人が生きているという近況報告で終わる。

ゲームの達人/シドニー・シェルダン・著

2010年10月2日
 原題 The master of the game/
 確かに、おもしろいのだが、ようするに、2つか3つの話をくっつけた感じだ。
 1880年代。スコットランドに生まれたジェミー・マクレガーは16歳の時、一攫千金を夢見て、ダイヤモンドラッシュに沸く南アフリカに単身旅立つ。そこでバンダミヤという人物に会い、だまされて無一文となる。復習を誓ったジェミーはバンダと協力して、ダイヤモンド原石を大量に手に入れ成金となり、バンダミヤを追い詰めていく。その復習の過程として、バンダミヤの娘マーガレットに近づき、妊娠させ、バンダミヤを精神的に追い詰めていく。一方、マーガレットはジェミーを本気で好きになり、結婚し、長男を夫と同じ名のジェミーとし、長女ケイトを出産する。
 今や南アフリカで1,2を争う巨大企業になったジェミーの会社だが、従業員の反乱にあい、長男ジェミーを誘拐され、殺害されてしまう。そのショックでジェミーは病気になり、他界、残されたマーガレットは、娘ケイトを生きる喜びとしながら、亡き夫の片腕であるデビッド・ブラックウェルと共にさらに会社を成長させていく。
 ケイトは成長し、天賦の商才を発揮するが、気が強く度々母マーガレットを困らせた。そんな中マーガレットは病に倒れ、他界、ケイトはデビッドと二人で会社を切り盛りし、やがてデビッドと結婚、ケイト・ブラックウェルとなる。ケイトは長男トニーを出産する。トニーは優しい子だったが、母の期待を一心に背負うあまり、精神的にまいってしまい、母なしの人生を生きようと画家を志す。ケイトの夫であるデビッドは現場の落盤事故で死亡。ケイトはゆくゆく長男に自分の会社を継いでもらいたいために、画家の道をあきらめさせ、トニーにわからないように、ケイトの思ったとおりの女性を、さも偶然を装わせ、結婚にこぎつけさせる。そんな計画を知ってしまったトニーは怒り、母ケイトを殺そうとし、自分もショックで精神に異常をきたしてしまう。
 ケイトは何とか重症から立ち直った。また、トニーの妻は、双子の女児を出産後、死亡、トニーは永久に精神病院からでられず、ケイトと孫のイブ、アレクサンドラが実質の会社や資産を相続することとなった。
 イブは強欲でわがまま、妹のアレクサンドラがいなければ、祖母からの愛と全財産が自分のものとなることを知って、何かと、妹の殺害を企てる。また、無類の男好きで学生時代学校の半数と関係を持ち、あまりの乱れた生活ぶりに退学となってしまう。それをすべて妹のせいにしていたが、ある日とうとうケイトの知るところとなる。
 激怒したケイトはイブを勘当し、二度とブラックウェル家に近づかないように宣言する。それを聞き、イブは激怒、必ず、憎い祖母と妹に復習をすると誓う。
 イブは、旅先で知り合った危険な男ジョージ・マルスを使い、アレクサンドラを誘惑させて、結婚し、ケイトとアレクサンドラを殺害し、相続権を奪う計画を立て、実行に移す。
ところが、殺害実行直前にケイトが勘違いからイブを許すこととなり、逆にジョージが邪魔になり、イブがジョージを殺害する。
一方、殺害前に受けたジョージからの殴打によって著しく顔面を傷つけられたイブは、天才外科医キースによって、奇跡的な整形手術を施される。きれいに元に戻った顔でいつものように男遊びにふけりながら、ケイトとアレクサンドラの殺害を計画しなおしていたところ、キースの独占欲のために、イブの顔は醜く整形されなおされてしまう。さえないキースを嫌っていたイブだが、逆にキースがいないと顔を治してもらえず、また心変わりをおこされると、一生治してもらえないために、従順な妻となる。こうして、イブへの鉄槌は下された。
ラストシーンはケイトの90歳の誕生日を豪勢に盛大に開いている場面。まだまだケイトの商才は衰えず、といったシチュエーション。
題名の「ゲームの達人」とは、ビジネスは夢をかなえるゲームのようなもの、と言ったケイトの言葉からなる。

働く女/群ようこ・著

2010年9月30日
 さまざまな職業で働く女性達の本音を綴ったエッセイ風な事情小説。デパートの外商部で働く女性、呉服店を営む女性、ラブホテルの女社長、コンビニで働くバツ一ママの奮闘記など。どうもかなり現実的に描いているせいか、読んでいると、あまりに現実くさく、気が滅入ってくる時もあった。現実がこんなだから、なにも小説のなかまでも一緒に同じ、気持ちが沈むような事書かなくても・・・・と思うのだが。本は家にあったから、そのまま読んだだけ。

影踏み/横山秀夫・著

2010年9月29日
 推理小説的要素を含んだハードボイルド系小説。
「ノビ師」といわれる夜更けに民家に忍び込み、見つからずに泥棒を働く犯罪を行う真壁。真壁には双子の弟がいたが、空き巣を働いた弟の素行を悲観した母の無理心中によって弟を失う。おまけに自宅放火という自殺手段を選んだ母も死に、助けに行った父も死んでしまうという悲惨な過去を持っている。しかし、弟は、声だけの存在になって、真壁の心に住み着き、真壁と行動を共にするようになる。
 本小説は、各章が独立した短編とも言え、ノビ師真壁が常に活躍する短編集とも呼べる。民家に押し入る強盗にも、空き巣、ノビ師、学校荒らし専門、天窓専門、など、種類があり、「業界擁護」満載でおもしろかった。

温室デイズ/瀬尾まいこ・著

2010年9月26日
 中学の暴力やいじめなどの廃頽を描く小説。主人公をみちると優子に置き、各章ごとに二人の視線になって語られているのが、特徴的。優子、みちる、そして不良中の不良である伊佐瞬を中心に物語りが描かれている。
優子は小学校の時、クラスからいじめを受け、小学校残り少しで別の小学校に移っていった経緯を持つ。この中学では、みちると友人であるが、みちるのいじめを期に、不登校となり、長く教室を休むことになる。一方みちるは、小学校では、いじめの先頭に立つリーダー的であり優子をいじめていた経緯を持つ。中学校では、逆に自身がいじめの対象となるが、逃げ出すこともせず、日々教室に通っていた。
「いじめ」のメカニズムというか、対応の仕方、「にげていい」のか、「逃げない」のか、どちらが正しいとか、正しくないとか、そういった観点ではなく、どちらにしても、「いじめ」のもたらす大変さが描かれている。
本書は、学校破壊なども含め、学級崩壊を描いているが、タイトルである「温室」とは、この中学時代が社会と比べると「温室」である、という意味。

シーズ・ザ・デイSeizeTheDay/鈴木光司・著

2010年9月22日
 「リング」「らせん」などの著者が書いたものなので、ホラーかと思いきや、中身は海洋冒険ロマン小説。クルーズヨットを持つ船越を主人公とした海にまつわる話。
 大富豪であり、友人、また海と人生の先輩である岡崎。その娘の祐子はダイビングショップのオーナー。昔の彼女である月子。美人だが、傲慢でわがまま、常に関心が自分に向いていないと気がすまない女。そしてその月子は、17年前に船越に黙ってかれた時、女児を出産し、陽子と名づける。その陽子と17年振りに対面を果たすが、同時に娘陽子の妊娠、出産、初孫の死と瞬時に様々が体験をする船越。陽子の心の痛手を癒すために、船越は陽子と二人で、フィジーまでの外洋クルーズをする。陽子はヨット技術をめきめきとつけ嵐でも船をコントロールできるまでに成長する。この旅で船越は、17年前に乗員として月子と一緒に乗り込み沈没した船事故は月子がたくらんだ事と知る。その沈没で、船越は仲間一人と恋人を失っていた。。。。

聖なる予言/ジェームズ・レッドフィールド・著

2010年9月14日
原題 The Celestine Prophecy/James Redfield
「私」は南米ペルーの森林でみつかった古代文書になぜか惹かれ探し求める旅に発作的に出発する。「写本」と呼ばれる古代文書はしかし、ペルー政府が弾圧をして、今や原本はおろかコピーも取り締まられ、めったに手に入れることはできない。しかし、偶然の一致による様々な人々との出会いが私を写本へと導いてくれるのであった。そしてそれらは、全て写本にある9つの知恵からできており、写本が私を正しいほうに導いてくれていたのだった。
 終わり方はいささか唐突だが、内容は好みのタイプで示唆に富んでいる。人類を新しいステージに導くこの予言「写本」は9つの知恵からなっていて、全てを理解することによって人類はおたがいにいがみ合う事をやめ、愛に満ちた生活を送る新たな世代、世紀に突入するとある。難しい言い回しが多く理解が難しい場面が多々あるが、写本の知恵は現在の我々にもためになる予言であった。例えば、偶然の一致などというものは無い。全ては必然、なにかしら意味があるから、そうなっている。人と目があうというのは何かしらその人と関係があるというしるし、話しかけてみる、などなど。

10万回の軽蔑/正本ノン・著

2010年9月4日
 明るく、ハツラツとし、聡明で美人のヨーコと知り合いになり、友達となった、麻子。そんな尊敬すべき友人ヨーコが不倫相手に徐々に溺れて堕落していく様を描いた作品。不倫相手を狂信的ともいえるほど愛し、信じてしまい身も心もボロボロになっていく描写は、恋愛小説とは呼べず、サイコスリラー的でさえある。

5年3組リョウタ組/石田衣良・著

2010年8月31日
 中道良太という25歳の教師4年目の人物を主人公に描かれる小学校教師の物語。直情型の良太に対し、冷静でけっしてあわてない、かつ学年一憂愁とうわさされる、染谷龍一。この対極的な性格を持った親友とも呼べる同僚と二人で、小学校に起きる様々な問題に立ち向かっていく。
 優等生でありながら、突然教師を脱走する元也、学年担任の執拗ないじめに耐え切れず寮の部屋に引きこもってしまう、学年担当は違うが同世代の教師、立野を救うべく奔走する、など。
 東京より東北の方1時間半にある架空の町清崎市を舞台に繰り広げられる、読み終わりが爽やかな、小学校教師物語。

風、空駆ける風よ/津島祐子・著

2010年8月25日
 高瀬律子という主人公を通して、女性の一生を様々な立場から描いている。高瀬律子と母の関係、律子と親友の史子の関係、史子と母の関係、史子と姉の関係といっても本当は従姉妹である清子との関係、これらのお互いの立場から見た相手や、その付き合いの良さ悪さなどを小学生の時からの律子を中心に描いている。
とはいうものの、文学とあって、物語自体はつまらない。むしろ苦痛の域に入っていた。

パプリカ/筒井康隆・著

2010年8月14日
 精神病であることを、知られては困る立場にある要職の人物を、睡眠時の夢を使って治療する、夢探偵、コードネーム「パプリカ」は、医学生理学ノーベル賞候補の美女、千葉敦子本人。彼女の勤務する研究所では彼女を擁護する現理事長島と、その反対派乾との間で分裂していた。敦子と同僚で、同ノーベル賞候補の時田浩作は、DCミニという人の見ている夢を映像化し、かつその夢に登場することが出来る装置を開発した。その機械を盗み、理事長派を陥れるために乾と小山内の二人は悪用する。DCミニによって、廃人となっていく敦子達の部下。これ以上の犠牲や悪用を阻止するべく、敦子達は乾たちに戦いを挑んでいく。しかし、DCミニを全て盗まれていた敦子達には、分が悪い。そこで、敦子はかつて「パプリカ」として治療した患者、能勢(大手自動車メーカー重役)と粉川(警視庁警視正)に救いを求め、みごとDCミニを奪還し、反撃に転じる。

フランス橋暮色/五十嵐均・著

2010年8月1日
主人公朱美子は、愛する千石のため、叔父とその妻を殺害する。その鉄壁のアリバイ工作が崩れていく様を描いた作品。刑事コロンボ方式の、最初に犯行や、犯人が特定されるタイプの推理小説。
朱美子はまず、ゆきずりの男とセックスし、コンドームより精液を採取。その後、ジョギングが趣味の叔母柿沼の妻をジョギング中の婦女暴行に見せかけるために、殴打したあと、膣内に精液を注射、後絞殺する。柿沼自身は、糖尿病の持病があり、その薬の中に青酸カリを混入させて、ランダムに薬箱の中に差し戻す。その後数日間のアリバイを工作し、やがて、青酸入りの薬をのんだ柿沼は悶死する。
 一見、完全犯罪のようなアリバイも、行きずりの男が朱美子を忘れられず、朱美子を捜し求めてしまうこと、そして、柿沼邸に柿沼の死亡を確認するために訪れた際、偶然の車との接触寸前のアクシデントをおこし、車の男が偶然に、その起こった時刻を覚えていた事などが災いして、崩れていく。

いつか海の底に/丸山健二・著

2010年7月31日
主人公、星児の17歳の日々を綴った作品。星児の兄は、将来エリートを期待されながら、大学受験失敗を期に堕ちて、銀行強盗襲撃の罪で、刑務所ぐらし、母は、将来の夢を兄に一心にたくしていたため、反動で、人間とも思えぬ肥満体になり、日がな一日ごろごろしている。父は、兄のおかげで、町役場務めができなくなり、退職。その反動で、ギャンブル・女に手を出し、浮気をして、星児たち残された家族を見捨てて、出て行く。そんな星児の境遇だが、星児本人はめげない若さを持っている。そんなある日、兄の銀行強盗仲間と思われる小林から、一人の外国人女性を当面預かってほしいと頼まれ、面倒を見る事になったが、星児は、その彼女に一目惚れしてすまう。同時期に夜間高校仲間の鈴木から中古船を一艘買い、理想の生活をするために共同で船のオーナーになりことをすすめられ、そのためにいくらか出資してほしい旨を相談される。・・・・
文体が短く、かつ簡潔にかいてあるので、たの作家と違った風合いが感じられた。ただ、あくまで文学作品であり、また、文学作品に多く見られる、何が面白いのかわからない的な事件性のない話が続いていくので、読み応えがある、とは言えない。

クローズド・ノート/雫井脩介・著

2010年7月13日
香恵は、引っ越して来た自分の部屋に、前の住人の忘れ物をみつけた。それは、小学校4年を担任に受け持つ伊吹という女性の先生の日記ノートであった。また、時を同じくして、外から自分の部屋を眺める青年石飛とアルバイト先の文具店でしりあう。石飛に惹かれていく香恵だったが、恋の行方は一進一退であった。そんな時、香恵は、伊吹先生のノートにも同じように恋に悩む伊吹の姿を見つけ、同じように感情移入し、また励まされてゆくのであった。いつしか香恵は、伊吹のノートに共感を覚え、安らぎを得、励ましをもらい、日記に激励されながらも日々を送っていくにつれ、伊吹先生本人に会ってみたくなり、小学校を尋ねていった。

夜光虫/馳星周・著

2010年7月7日
台湾のやくざ「黒道」と台湾プロ野球選手の主人公が、八百長に手を染め、墜落していく様を描いたハードボイルドサスペンス。
主人公加倉は、日本のプロ野球を追われて台湾野球、しかも八百長野球にずっぽりはまっていた。日本に残した億単位の借金のためだ。しかし、八百長を同僚の俊郎にみつかる。正義感の強い俊郎は、警察に自首するよう説得する。身の破滅を感じた加倉はチームメイト俊郎を殺害してまでも、保身を図った。ここからずるずると、加倉の墜落が始まるのであった。

せつない話/山田詠美・著・編

2010年6月29日
自身の作品も含め15の短編話を「せつない」というカテゴリでくくって紹介した作品。純朴な青年手品師が、恋人の前で手品ネタとしょうして自殺を試みる「手品師/吉行淳之介・著」ジゴロに恋をし、また相手のジゴロも彼女を好きになるが、別れをきりだす、セレブ中年女性の悲恋を描く「ジゴロ/フランソワーズ・サガン」など。

イブのおくれ毛/田辺聖子・著

2010年6月22日
週刊文春に連載されていたものを単行本化したもの。お聖さんこと、田辺聖子、飲み友達の通称「カモカのおっちゃん」との男と女の猥雑な話を繰りひろげる。「あそこの名称」「よばいのルール」「女のふんどし」など、ほとんとが下ネタの短編集。

いいわけ劇場/群ようこ・著

2010年6月20日
 12の短編で、テーマが「いいわけしながらもこれがないとやめられない」という事について書かれある。毎朝2時間かけてでも化粧しないとすまない女、食べても食べても次から次へと食への欲求が沸き起こる家族、添加物が入った食品が摂ることができず、無添加ばかりを追求し、場所もわきまえず、人にも強制する男、服飾に借金してでもつぎ込んでしまう女、など。

そして誰かいなくなった/夏樹静子・著

2010年6月14日
 アガザ・クリスティ原作の「そして誰もいなくなった」の筋書きに酷似した事件がおこる。  豪華クルーザー『インディアナ号』に乗り込んだクルーを含む7名。出航後、まもなく、一人ずつ何者かに殺されてゆく。太平洋上に浮かぶ密室、さらに一人、また一人と殺され、残った人々は次第に恐怖に駆られてゆく。最後に残ったのは、この本の主人公である桶谷遥。しかしただ一人残された遥も精神的においつめられ海に身を投げて自殺する。クリスティの元祖の方は、殺された人々のうち一人だけが芝居をしていたが、こちらは、遥以外の人物6名が結託して、遥一人を死に至らしめるための壮大な芝居であった。残りの6名は、遥の父が経営するホテル・コスモポリタンで火災に会い命を落とした人々の肉親であった。ラストでは、海に投身自殺を図った遥が岸に打ち上げられ、奇跡的に命をとりとめるが、娘の自殺を知った父の方が倒れ、心臓発作で死亡、という決着となっている。

2012年3月4日日曜日

夢あわせ/半村良・著

2010年6月11日
 同タイトルを含む短編12作品。
人知れず深い山奥に分け入り、誰にもみつからない場所で、自殺を試みる男。しかし男に恨みを抱きながら死んでいった者達は、そんな死に方はさせない、と、亡霊となって、男の前に現れる。霊が語った男の悪行は誠に身勝手で、霊達は完全なまでに男の体をひきちぎり、無に帰させてしまう『林道』
 伸子と隆夫は、愛し合う夫婦。仲がよく、夢の中でも一緒にいようと約束し、努力を開始する。そのかいあって、お互いは夢の中で出会い、一緒になれる。しかし、それは現実世界で二人の死を意味していた。二人は二人の葬儀を空中から浮かんで見る時、果たしてこれも夢ではないのか?と疑問を払拭しきれないでいる『夢あわせ』など。

ライジング・サン/MichaelCrichton・著

2010年6月2日
 LAにあるナカモト・タワー落成式当日、ビルの46階会議室で美女モデルが絞殺された。スミス警部補とコナー警部は、捜査に乗り出すが、日系企業であるナカモトの社員達の、強引とも思える捜査妨害にあう。純粋なアメリカ人スミスに対して、日本に長く住み、日本人気質を知り抜いているコナー警部とのコンビが、日本人相手に捜査を展開していくと、行く手に思わぬ障害が待ち受けていた・・・。
 アメリカに台頭しつつある日本人を脅威と感じながらも利益、利権がからみ、簡単に日本を排斥できないアメリカ。これらの話題を核に話は進められていく。

時の雫/木崎さと子・著

2010年5月25日
 勤めていた電電公社を退職したあと、仕事につかず、ふらふらして、母の持ち物であるマンションに優雅に一人暮らしをする40代の中年女性朋子が主人公。はっきり言って、相当おもしろくない。何度やめようかとおもったぐらい。その後も気を取り直して読み続けたが、文字を一つ一つ、楽しむようには読まず、スピード読みしていった。ほとんど速読術状態。内容は、上記女性がやがて結婚するまで。この一言に尽きる。その間、とくにおもしろい事象が起こるわけでもなく、たいくつきわまりない。最悪だ。時間を返せといいたくなる。

星々の舟/村山由佳・著

2010年5月23日
 全6編からなる短編集。タイトル話は無く、各々のストーリを総称する意味でついている。面白いのは、それぞれの短編が一つの家族の一員を主人公として展開しており、全く別の短編、というわけではない。 
 生まれた東京を捨て、暁が札幌に渡り数十年が過ぎた。その間、一度も東京にもどったことはない。そんな時、突然末の妹から連絡が入り、母の危篤を知らせる。母といっても義理母であるが、暁を本当の息子のように接してくれた人だ。あの家で唯一会いたい人に死期が迫っている。『雪虫』
 自他ともに認める良縁を断った沙恵。それには、高校の時から思いつめていた人の面影がちらついていたからだ。そのころ2年間ほど、お互いに愛しあった仲であったのだが、お互いが肉親で兄妹であることがわかり、突然の別れとなった。しかし、理性で判っていても、体が割り切れない、心が未だに兄を求めていた。『ひとりしずか』 他4編。

フルハウス/柳美里・著

2010年5月17日
 港北ニュータウンに父は新しく家を買った。家具や何かを新調し、そうじなどもいそいそとやっている。しかし、空気で気づいている、私も、妹も、父とはすまない事を。母はとうの昔に家を出ていて、当然、この家には住まない。ある日、父から電話があり、知らせたいことが あるから、新しい家に来て欲しいと言う。行ってみると、新築の家には、全くの見ず知らずの人が住み込んでいた。
 全体に文章が暗く、陰鬱な感じ。読むのが億劫になってくる。さらに、著者が結局、何を言わんとしているのか、さっぱり意図がつかめない。個人的にはもうあまり係わりたくない作品。

ゴールデンスランバー/井坂幸太郎 ・著

2010年5月12日
 新しく首相に就任した金田のパレードを狙ってラジコンヘリが近づき、そして爆発、金田首相が暗殺された。青柳雅春は、身におぼえのない、首相殺しの濡れ衣を着せられ、警察を始め、マスコミ、そしてこの事件の本当の黒幕であろう組織あるいは、権力によって、徹底的に追い詰められていく。青柳一人では、簡単につかまっていたであろうほど、包囲網はきつく、また、でっちあげの証拠がいやおうなしに青柳の犯人説を作り上げていく。しかし青柳が窮地に陥った時助けてくれた様々なひとによって、事件はすんなりとは解決せず、青柳にも、またみえない国家権力にもシナリオとはちがった展開が待っていた。

クリスマス・イヴ/岡嶋二人 著

2009年12月10日(木)
クリスマスイヴを友人らと別荘で過ごす事を計画した敦子と喬二。ところが別荘についてみると、先に到着しているはずの友人の死体を発見する。それを機会に、次々と起こる見知らぬ殺人者の攻撃。敦子等対殺人者の攻防が繰り広げられる。ラストまではらはらの展開で、ハリウッド映画的ですらあります。

秘密/東野圭吾・著

2009年12月14日(月)
映画化もされましたね。まわりでは、映画よりも小説の方がおもしろい、という意見の方が多かった作品。
主人公、平介は妻と小5になる娘の3人暮らし。その妻と娘がバスの転落事故に遭い、病院に運ばれる。重症の妻は、平介の見守る中、ベッドで息を引取り、娘は頭部に損傷を負ったかに見えたが、奇跡的に意識をとりもどす。 ところが、娘の中には、娘本人ではなく、妻の意識が宿っていた。顔、体は小5の娘、しかし中身は35歳の妻である娘との奇妙な2人暮らしが始まる。
よくある「入れ替わり」ものですが、東野先生にかかると、一味もふた味も違います。なんせ、あの「ガリレオ」の著者ですからねぇ、決してメルヘン的にならず、むしろリアルに、この入れ替わりを描写しています。ラストは切ないのですが、えっ!と思うどんでん返しもみごと!つい引き込まれて一気読みしてしまった作品です。

天国までの百マイル/浅田次郎・著

2009年12月15日(火)
経営していた不動産会社も倒産、と同時に自己破産、妻子とも別れ、2年間の間友人の小さな会社で働き、慰謝料を毎月送金する生活。そんな主人公安男。こんな落ちるところまで落ちた安男には、年老いて、重度の狭心症を患う母がいた。母はこのままでは死を待つのみであり、他の兄弟達もこれ以上の手立てを打とうとはしなかった。しかし、安男はこのまま母を死なすことには我慢がならなかった。助かる方法はただ一つ。東京から百マイル(160キロ)離れた病院に転院させて、手術を受けることだ。安男は、母に対して無関心の兄弟達の行為に怒りと失望を感じ、誰の力も借りず、単独で母を転院させようとする、、、、、。

ぼくと、ぼくらの夏/樋口有介・著

2009年12月18日(金)
高校2年の夏休み初め、同じクラスの岩沢訓子が自殺した。その自殺を不審に思った、春一と麻子は、事件の解決に乗り出す。二人の恋の行方と同様に事件は思わぬ方向へ展開していく、、、、。
軽妙なタッチで描かれ、ちょっとミステリとしては、力不足を感じさせます。ですが、高校生の行動、恋愛感、感じ方などはまさに青春的なほろ苦さもあり、好感が持てます。また、物語が、府中、国立、調布、読売ランド、東京天文台、武蔵境など、名指しですので、この辺のローカルの方はたまらない臨場感でしょうね。といっても時代背景は、80年後半らしいので、いささか、古さはあります。
最初は、文体が軽く、「失敗かな?」と感じることもありましたが、おもしろく読めました。

ビューティフル・ボーイ/トニー・パーソンズ著

2009年12月20日(日)
原題 man and boy
ハリーは30歳の誕生日に同僚女性と一夜を共にし、平凡で幸せな家庭を失う事に。妻は家を出て、キャリアウーマンの道へ。残されたハリーと4歳の息子のたどたどしい生活が始まる。ハリーはこの生活から真の父親なることを、喜びと共に学んで行くのだが、そんなある日、妻が突然舞い戻り、息子を引取ると言い出した、、、、、。
その年、ハリー・ポッターを抑えて英国図書賞に輝いた本です。英国中が感動した、と帯には書いてあるのですが、残念ながら、私はそれほどには泣けませんでした。ちょっと感覚が違うのかもしれません。多くの翻訳書にある、フィルターがかかった感じがするのです。

レベル7(セブン)/宮部みゆき・著

2009年12月23日(水)
「レベル7まで行ったら、戻れない」謎の言葉を残して失踪した少女。腕に「Level7」と書き込まれ、見知らぬマンションで目覚めた男女。レベル7とは何か。少女はどこにいるのか。そして目覚めた男女は誰なのか、、、、。(本編裏表紙より抜粋)
文庫本にしたならば、電話帳を楽勝で上回る厚さになろうかという、超大作。確かに宮部先生だけあって、ぐいぐい引き込まれます。しかし、物語のシーンが3箇所あり、各々を交互に書き綴っているため、少しわかりにくい。そして、登場人物もやはり多いので、(謎解きものではしょうがないか)難しさに拍車をかけることに。さらに、最後の結末も、私にとっては、少し歯切れが悪い印象が残りました。

微熱/赤川次郎・著

2009年12月26日(土)
新婚旅行先のオーストラリアで、田川は七人の老人たちが断崖から次々と飛び降りるのを目撃してしまった、、、、。それから十七年。中古マンションに引越した田川家の周辺に奇妙な事件が続発。娘・裕果の部屋に洋服ダンスから現れる不思議な少女は誰なのか。十七年前の事件がチラつくのは何故か、、、。(裏表紙より抜粋)
赤川次郎先生の作品は、本当にはずれがなく、みなお勧めできるものが多く、しかも読みやすい文体です。初めて赤川次郎の小説を読んだ時、「少し幼稚な人なんじゃ、、、」と思えるくらい、シンプルで読みやすかった、と記憶しています。
この「微熱」は推理もの、というよりは、少しオカルト色も入っていますので、割と現実的な世界を描く赤川ワールドとは一線を隔していますので取り上げてみました。
私は、自他共に認めるオカルト好きですから面白く読ませて頂きました。

象の背中/秋元 康・著

2009年12月27日(日)
余命6ヶ月と宣告された藤山は、延命治療を拒み、残りの命を有意義に過ごそうと考えた。そこで、過去に自分が出会い、影響をもらった人達を探し出し、感謝と別れの挨拶をする「遺書」を残そうとする。藤山はそこで再会した人々と接する事で、様々な気づきを経験してゆく。
最初の数十ページで、これは「お涙頂戴物」と気づき、泣くまいと身構えていたのですが、ラストはやはり泣けました。後半はリアルな死への描写が、気重になりますが、自分が同じ立場になったら、、、と思うと、考えさせられました。
ところで、「象の背中」という言葉が、本文中では、一度も出てきません。どうでも良いのだけれど、そんな事が気になり、しかし、この小説にはぴったりのタイトルだなぁ、と感じました。

金持ち父さん貧乏父さん/ロバート・キヨサキ・著

2009年12月29日(火)
原題 Rich dad, Poor dad
これは、小説ではありません。全世界で1000万部読まれたベストセラーものです。
ロバート少年は、幼い頃から、2人の父に育てられました。一人は実の父、そしてもう一人は、父のように接してくれた父と慕う人。ロバートはこの「金持ち父さん」からそして反面教師として実父からどうやったらお金もちになれるのか?を体得していきます。
もちろん実用書だけあって、啓蒙的なところも多く含んでおりますが、豊かな暮らしを望む方には大変示唆に富んだ内容です。「お金を稼ぐ?そんなの仕事バリバリやるしかないっしょ?」と思ってる人ならば、目から鱗は必然です。私もこの本で、お金に対する価値観が変わりました。ただ、豊かな暮らし=お金持ち、という考えには、素直に共感はし兼ねます。人間、金だけじゃだめだ、逆にこの本の正反対のことも考えさせられました。

手首の問題/赤川次郎・著

2009年12月30日(水)
仕事もいやになり、恋人もいないOLが下着ドロに手錠をかけた。頭に来てベランダにつなぎ、顔も見ないで外出してしまう。残された泥棒はなんとか逃げようとするのだが、、、、。意外な犯人とラストが印象的なタイトル作をはじめ、4話をおさめた短編集。
期待を裏切らない赤川ワールドです。短編なのと、赤川次郎先生の抜群の読みやすさで、本嫌いな人も導入編として良いのでは?と思います。

夜警/赤川次郎・著

2009年12月31日(木)
主人公栄田は、最新のビル「kヒルズ」の夜間警備員。いつものように巡回をはじめた午前3時、エスカレーター付近に6,7歳の少女がたたずみ、微笑んでいるのを目撃する。保護しようとして、少女を追いかけるが、見失ってしまう。しかし、翌日の午前3時、またしても同じ少女を同じ場所で目撃する。少女の正体は、、、、。
平成19年4月出版。
大晦日の日に辛口コメントもどうか、と思いますが、本作は、赤川先生でもスランプ、あるいは、傑作ばかりを出し続けるわけにはいかないんだな、と思わせる出来だとしか思えません。まず主人公があまりにも「もて」過ぎです。ここまで女性にもてなくても作品になんにも影響ないのに、不必要にもてすぎです。物語として非現実を扱っているのに無意味にもてすぎて読者の共感を得られず、反感すら感じます。だって、警備員の仕事中に、アイドル歌手に慕われ、事件関係者の姪と恋に落ち、同僚の女性からは好意をもたれ、そもそも、それとは別に最初から彼女がいる、という設定です。これらの事実はあまり話しの内容とは関係ないものです。パイロットや弁護士などの職業ならいざしらず、、、。
とはいうものの、後半ギリギリにやっと、赤川節がちょっと復活、で辛くも最低点は免れた、という感じです。

夏への扉/ロバート・A・ハインライン・著

2010年1月4日(月)
原題 the door into summer
1979年発行、となっているが恐らくもっと古いと思います。
主人公ダニイは恋人に裏切られ、仕事をくびになり、命から二番目に大切な発明さえ騙し取られ、失意のどん底に。人生に疲れた彼は冷凍睡眠保険を選び、長期睡眠により、1970年から21世紀の未来へとタイムトリップする。
この本はSFの巨匠、ハインラインの代表作です。おもしろいです。翻訳の弱みさえ吹き飛ばすほどの傑作として有名です。時代設定が70年から30年後の21世紀に飛ぶ、わけなんですが、今がその「未来」なわけですよね、それを考えると21世紀の町並みなどの描写は、感慨深いです。私は今までに3回読み返し、自分で欲しくて買い求めました。是非読んでみてください。

心に残るとっておきの話/潮文社編集部・編

2010年1月11日(月)
読者から募集した、美しい話を集めた本です。比較的年齢が高めの方の投稿が多く、戦争や戦後復興時の話が多く、当時の大変さとかがよくわかります。また各世代ともまんべんなく採用しているようで、それぞれの年代で感じ方、物事の捉え方が違って、人間性がよくでていておもしろいです。そんな中で、一番気を引いたのは、夢の中で、全く違う人生を歩んでいる自分がいて、それが現実と間違わんばかりにリアル。気になって、霊能者に相談したら、なんと、別次元に生きる自分の人生を、現世の自分が夢としてみているという話。
他の話は心が温かくなるような「普通」の話なのに対して、この話だけが、妙に浮いていて印象に残ってます。編集部、なんでこの話をこの本にいれたのだろう?

磯野家の謎/東京サザエさん学会・著

2010年1月13日(水)
ご存知アニメ「サザエさん」の謎について様々に解答してくれる。例えば、磯野家の家の間取りは?とか、サザエさん夫婦は新婚当初、九州で暮らしていたなど、「へぇー」と思うもの満載です。ただし、飽きます。よほどのサザエさん好きでないとね。と言うわけで、恒例の下記ある、「お勧め度」も低くなります。私的に最も印象に残った情報は、この本にサザエさんアニメがただの一つも出てこないこと。これは、この本によると、著作権の問題らしい。このサザエさんの著作権管理団体は、相当こういうことについてうるさいらしい。
そういわれてみれば、世の中にサザエさんグッズが相当少ないことに気づく。「へぇー!」

卑弥呼/久世光彦・著

2010年1月14日(木)
カオルとユウコは恋人同士。だがまだアレがない。何度かする機会があったのだが、いざという時カオルのものが役に立たず、いまだに出来ずにいる。本書中、「アレ」と表現するアレは、もちろんセックスの事。この仰々しいタイトルにして、セックスにまつわる青春ドタバタラブコメディか!と思わせる文体と冒頭から2,30ページ。ようやく別の展開もでてきたが、、、、いかんせん、連載物の悲しさか、ちぐはぐな場面、物語の一貫性などに欠けてしまう。久世先生、きっと実力あるだろうなぁ、と思わせる文章表現力は、さすが、数々の賞を受賞されているだけあるが、はっきり言って本書はいただけない。本の根底に愛と生と死について素晴らしさ、悲しさ、などがメッセージとしてあるのだが、やはり、連載物の悲しさか、それが唐突に始まってみたり、、、、と、とにかくちょっと首をかしげたくなる。

幻夢展示館/山村正夫・著

2010年1月16日(土)
著者自身による自選短編集。6話収録。
いわゆる「霊・おばけ」物ではなく、人間の狂気・性などを扱い、作風は少々グロに仕上がっている。
霊能者の怒りを買い、翌日から自分で自身の顔を見れなくなるばかりでなく、徐々に顔が崩れていく恐怖を描いた「失われた顔」。似たような作風で、肉体は死んでいるのに、意識ははっきりしており、まるでゾンビ状態になった男の話。体はどんどん腐敗していくのに、意識はしっかりしており、自分を殺した相手を追い詰めていく「死を弄ぶ男」など。平成元年出版ながら、作品中の言い回しが少し古く、その辺は昭和6年生まれの山村先生ならでは。

ブレックファーストはアメリカで/蒼井マキレ・著

2010年1月17日(日)
著者自身による、アメリカ往復旅行日記。80年代初めくらいの話のようで、当時女一人で1ヶ月以上アメリカに滞在し、しかも英語が非堪能らしく、まさに冒険と呼べるチャレンジの日々を綴ったもの。
そういった点では、「スゴイ!」の一言。蒼井先生の勇気に敬意を表したい。この本を読んでいると頭をよぎるのは、「成せば成る」「当たって砕けろ」という言葉でした。
さて、しかし、本、として考えるとあるいみ本当に「日記」なので、物語としての醍醐味には欠ける。
また、どうやら当時著者は、男女間の人間関係に悩み逃げるような格好で渡米したらしく、日記にもプライベートでないとわからないような記述も少しあり、意味深な箇所があり、その辺は理解不能だ。

眼のない人形たち/森真沙子・著

2010年1月20日(水)
平凡な主婦・啓子はマンションないに配られた悪質な中傷ビラに、精神的に追い詰められていた。身に覚えの無いことだが、啓子を見る住人の眼は噂と共に冷たく変貌し、やがて、ビラを配っていた犯人の後姿を見たというガードマンの墜落死から、事件はもう一つ別の凶悪な相を見せ始めた。
作風は赤川次郎に似ていますが、私はこちら森先生の方が人物描写が女性ならではの視点で細やかに設定が行き届いていると思います。赤川次郎・宮部みゆきなど、の諸先生方と肩を並べて評されても良い、と思われる森真沙子先生ですが、知名度の点で今ひとつですね。でも前述のように、人物描写の優れた本格ミステリに仕上がっています。

夢をかなえるゾウ/水野敬也・著

2010年1月24日(日)
ある日、主人公が目覚めると、自分の部屋に突然神がいた。神の名はガネーシャ、象の頭、人間の体、手が4本あり、関西弁で話しかけてくる、ふざけた神様だ。そんながさつで、ずうずうしい神様と同居を始める主人公が、だめ人間から、ガネーシャの教えを実行しながら「成功とはなにか」をつかんでいく物語。
よくある自己啓発本は教科書的な書式をとるのに対して、本書は完全に物語形式を取り、こういった啓発物に初めて取り組む人にも読みやすくなっている。また、話も大変おもしろく、電車の中で笑いをこらえる場面が何度があったほどだ。
私は実際、TV化された「夢ゾウ」を何度が観てしまったおかげで、話の内容がある程度わかってしまっていて、初々しさはなかったものの、TVを見ていなかったら、大変おもしろく、もっとのめり込んで読めただろうな、と思う。自分をcheer upさせる、この手の話は大好きで、内容もいいと思うので、思い切って皆さんにおすすめします。
中には本書を「自己啓発本の第一歩」と位置づけする人もいるが、私はこれ一冊で充分だ、と思う。この本さえあれば、他の本はいらないだろう。

わだつみの森/濱岡 稔・著

2010年1月29日(金)
悪天候のため、列車の脱線、車の脱輪などで行く手を塞がれて、偶然出会った男女5人は、山を下り、自力で逃げる事に。暴風雨と山の急斜面を下る作業は熾烈を極め、全員憔悴しきっていた。そんな時、岬の突端に一つだけ明かりのともった洋館を発見し、救助を求めるのだが、、、、。
難易度の高さは、ブログ解説以来の高い3を着けさせていただきます。だってすごいよ、これ。文学の知識が会話のいたるところに飛び出す。エリューアル、マラルメ、セラフィタ、久生十蘭、小栗虫太郎、、、、ね、こんな作家の名前どうです?しかも、「例えばそれは、マラルメの何々の本の詩の一遍のようだ、おお!そうか、そうだったのか!」、、、とかいわれてもねぇ。そういった意味で、読みながら「こりゃ、お勧め度は1か、2だな」なんて考えていたら、後半の推理、謎解き、真犯人、などは、え!?みたいなからくりがあったので、すこしお勧め度回復の幻想推理小説です。

顔に降りかかる雨/桐野夏生・著

2010年2月1日(月)
第39回江戸川乱歩賞受賞作品。
ミロの友人耀子が、四千七百万円を持って行方をくらませた。そのお金は、耀子の恋人成瀬の事業回転資金だった。そして、成瀬はその金を親密にしている暴力団員の上杉からかりたのだった。上杉は1週間の期限を設け、ミロと成瀬に、彼らの命と引き換えに、耀子の捜索を迫ってきた。二人は反発しあい、猜疑心に満ち溢れながらも、耀子の探索に乗り出してゆく。その先に待つ意外な真実とは、、、、。
受賞作だけあって、よく練られたストーリーです。ネタばれになりますから、これ以上は申しませんが。また作風もおもしろく、個性的です。新宿近辺の都心中心の話で人間のアングラなところなどが随所にクローズアップされて、いわゆる都会に暮らす人々目線がよく描かれています。

ボクの町/乃南アサ・著

2010年2月6日(土)
新米警察官の三ヶ月間の交番勤務研修期間を描いた作品。
高木聖大は、警察学校を出て、すぐ霞台駅前交番勤務を命ぜられる。もともと、成りたくてなったわけじゃない聖大にとって、警察官の仕事は、過酷で、厳しく、ちっともおもしろくない。やがて聖大は、警察官という仕事に疑問をもつようになる、、、、、、。
推理小説かな?と思って読んだのですが、そうじゃありません。純粋に、警察官という仕事を通して、聖大という若者が少しずつ成長していく姿を描いたものです。警察の仕事の様式が事細かに描かれていて、「マニア」にはおもしろいですよ。警察用語「戒名」「専務」これなんのことかわかりますか?全て本書にかかれてあります。

13階段/高野和明・著

2010年2月9日(火)
第47回江戸川乱歩賞受賞作。
刑務所刑務官を退職した南郷と、傷害致死で実刑2年の服役を終えた三上が、死刑囚樹原の冤罪を証明するために奔走し、真犯人を追い詰めていくミステリ。
受賞作だけあってとても面白く読めます。ただ、中盤に絞首刑の実にリアルな描写があり、ちょっとグロさがあります。死刑執行方法がつぶさに描かれており、この手が好きな方には良いでしょうが、、、。
裁判用語が多くでてきますので、少しとっつきにくさがあります。この辺が難易度の高さ2にさせて頂いた理由です。

ミーナの行進/小川洋子・著

2010年2月14日(日)
主人公・朋子の、中学1年の1年間の話。
朋子は、親の仕事の関係で、今まで住んでいた岡山から、1年間兵庫・芦屋の叔母の家で生活することになった。そこは、叔母、叔父の他にドイツ人の祖母、ローザ、お手伝いの米田さん、従妹のミーナ、そしてカバのポチ子、飼育担当の小林さん、が暮らす大きな屋敷だった。
話し手である、成人した朋子が当時を振り返るような話で始まり、それが、時々に顔を出す、その切なさが心にしみる物語です。特に刺激的な話題があるわけでもなく、逆に涙が溢れてとまらない、という話でもないのですが、ノスタルジックな感傷が心に拡がります。また、挿絵も綺麗で、それも読む楽しみを倍加させてくれます。

生死不明/ 新津きよみ・著

2010年2月17日(水)
弘子の夫茂は、結婚後半年して、突然蒸発してしまった。それから3年の月日が流れる。弘子は生計を立てるために、自宅で書道教室を始め、新たな生活に日々を忙しく過ごしていた。新しく好きな人もでき、このまま夫は蒸発したままでいたらいい、と考えるようにさえなっていた。そんなある日、「ご主人は生きています」と一行だけの手紙が舞い込む。・・・・・・・
謎が新たな展開をみせておもしろいですが、「推理小説」というわけではありません。それなりに緊迫感があり、はらはらする部分もあって、娯楽小説としては、いい線いってるのではないでしょうか?特殊な場合の心理状態、母の子を思う特殊でゆがんだ複雑な心理などは、少し理解するのが難しいところもありますが、(ネタばれになりますので、)良い作品だと思います。

丘の上の向日葵/山田 太一・著

2010年2月22日(月)
研究所勤めの孝平は、妻と娘の3人暮らしで、平凡な日々を過ごしていた。ある日、帰宅途中の電車のホームで、女に肩をつかまれた。その女は、呼びとめたのではなく、気分が悪く、とっさに孝平の肩をつかんだのだった。降りる駅も一緒とわかり、行きがかり上、女の自宅まで送っていくことに。女の自宅につくと、女の口からは信じられない事実が発せられた。・・・・・・・
ふぞろいの・・・・で一躍有名になった山田先生、さすが、恋愛小説は、読ませますね!恋愛小説、というより、男女の愛憎悲喜こもごもな事件物、と言い直したほうがあってるかな?とにかく、こういった関係のお話を求めている人であったら、本作ともども山田太一先生は、要チェックです。

深い河/遠藤 周作・著

2010年2月28日(日)
臨終の床で妻が磯部に言った最後の言葉、「きっと生まれ変わるから、私を見つけて」 この言葉が頭に焼き付いて離れない磯辺は、妻の転生を確かめるためにインドに赴く。このインドツアーには、磯部の他、美津子、木口、沼田、が参加していた。彼らはただの観光客でなく、磯部のように各々事情をかかえて、このツアーに参加しているのだった・・・・・。
もう世界屈指と言っても良いでしょう。日本が生んだ純文学の巨匠、古里庵先生こと、遠藤周作の転生、とその考えの源となる宗教観、この二つを通して、愛とは?生きるとは?を読むものに投げかけて来る作品。不思議な事に、特に泣く場面でもないのに、涙がこみ上げてきます。また、何にも特別な場面も事件もおこらないのに、読み進められます。ほんとにこんな状態なのに、何故泣く?と思いました。たぶん、物語が自分の知れない領域「心のひだ」に触れて勝手に涙を流させたのだと思います。驚きました。読んでこんな気分になった本を書く遠藤先生、他の小説家とは1枚も2枚も上手です。それと、びっくりしたといえば、ラスト。「え?これで終わり?」と思わせる感じ。思わず、本の乱丁か、それとも先生のもしかして絶筆?と思ってしまいました。

揺れて/落合 恵子・著

2010年3月6日
夫が死んで1年の40過ぎの女性が、今までの専業主婦の立場から、女性として一人自立した生活を送り、やがて恋をするまでの話。
ネタばれじゃないのですが、なんとこの小説の全貌であります。今回は正直、辛口コメントになってしまいます。落合恵子先生、とても高名な作家ですが、今回初めて読ませて頂きました。何度途中で読むのを止めようかと思ったかしれません。
確かに、平凡な一主婦の女性が、自立するまでの様々な人との出会いから成長していく様を綴ってあるのですが、それが本当に平凡でつまらない。更に、私をいらだたせた事は、登場人物皆奇麗事、人間ができてる事です。有機無農薬栽培の野菜の話、環境問題、人間のあり方、人種差別、これらが矢継ぎ早に出てきて、しかも、まさに模範解答の連発。
私が嫌だな、と感じたのは、これらの「問題」をすべて文章で綴ってあり、これではまるで自己啓発本です。小説というのは、物語を通して、読者に考えさせる間接的であるからスゴイ!と感動するのではないでしょうか?

世界の中心で、愛をさけぶ/片山恭一・著

2010年3月7日(日)
皆さん、ごぞんじ「セカチュー」です。ベストセラーですから、あらすじを知っている人が多いと思いますので、あまり語りません。
朔太郎の中2から高校2年くらいまでの回顧録的に、切ない初恋物語が進行します。
先に映画を観てしまいました。その時、何故オーストラリアにこだわるのか?何故エアーズロックにこだわるのか?映画を観た皆さん、わかりました?
私はわかりませんでした。で、小説を読んでみたのです。結果、よくわかりましたよ。もちろん、アキが病気で修学旅行に参加できなかった。その旅先がオーストラリアだったというのも一因ですけど、アボリジニの考え方があったからなのです。
とくに衝撃的な何かがあるわけでもないのですが、読み終わると、さわやかで、しかし、なんともせつなーい感傷が心いっぱいに広がりました。読んでよかった。
また、トレンドにもなった本作品、作者もさぞ若い方かと思ったら、1959年愛媛県生まれの方でした。片山先生、これからもがんばって私達を楽しませてください。

流星ワゴン/重松清・著

2010年3月12日(金)
おもしろい!この本絶対お勧めです!本を読むために一日休みを取って、どこへもでかけず、じっくり読みたい、そんな気にさせる本でした。また、物語がいとおしく、ゆっくりと、行間まで味わいたい、残りのページが少なくなるにつれ、終わらせたくない、と思わせた本は、そうザラにはありませんが、本書はまさにそれでした。
妻には離婚を切り出され、一人息子は親に暴力をふるうようになり、主人公自身、今日会社をリストラされた。「もう、死んだっていいや。」家に帰る気になれず、終電の終わった駅のロータリーで、おにぎりとポケットビン型のウィスキーをちびちび飲んでいると、旧型のワインレッドのオデッセイが、音もなく静かに停止した。彼はこれから、オデッセイに乗り、信じられない旅にでるのだ・・・・・。
読み終えたら、心に灯がともる感じです。世の全ての父と子の関係の方に、または親の立場に立っている人へ、読んで欲しい良書です。ただ、エロくはないですが、リアルな性描写もありますので、ご注意を。

愛しの座敷わらし/荻原浩・著

2010年3月20日(土)
ある一家が座敷わらしと出会い、生活していくうちで様々な経験をしていく、ハートウォーミングストーリー。
前回紹介本に続き、こちらもイイ!!!。 2008年4月刊と、私が紹介するなかでは比較的新し目ですが、ノーマークの作家でした。
確かに特別驚くべき仕掛けもなく、あるひと夏を描いてあるだけ、と言ってしまえばそれだけなのですが、本を読み進めていくうちに、様々気づき、考えさせられる事が見えてきて、(私の良書の判断基準の中核です)読み進めていくうちに、自然と笑顔が出てきてしまいます。座敷わらしの本当の意味などもこの本から知りました。それにしても座敷わらしの描写のなんて可愛らしい事!!! 思わず会いたくなります。 ああ、遠野に行って見たい!!!

対岸の彼女/角田光代・著

2010年3月21日(日)
小夜子は、人となじむ事が苦手な面を娘あかりに見出し、焦燥感をつのらせていた。それは、本人がかつてそうであったため、ゆえのあせりであった。今の生活に満足はしているものの、苛立ちにも似た感情は日に日に増していく。そんな自分を変えたくて、働きに出る事を決意する。採用された会社は小規模会社であったが、同じ大学出身の同年の女社長葵とは、妙に馬があった。きさくで、開けっぴろげな性格な葵であったが、そんな彼女は、高校時代ある事件をおこしていた。
読み始めは、「はずれかな?」と思いつつ、読み始め、100ページくらいまでは、愚痴っぽくて、気分が暗くなりかけましたが、やはり後半は見事!ひきつけられました。思えば、前半は書いてある内容がいじめの話であったりしたので、暗くなってたんですね。まんまと作者の文章にしてやられていたのでしょう。

彼方(あなた)への日々/唯川恵・著

2010年3月24日(水)
水泳のインストラクターをしている曜子は、十年前、兄をバイク事故で亡くしている。そのバイクに乗りたくて、せがんで乗せてもらっての事故だった。それゆえ、曜子は、自分を責め、人に素直に甘えることができない性格を持つようになる。ある日、水泳教室に通う児童真之の保護者である久住陸と出会う。造形作家である陸は、曜子に作品のモデルになってくれるよう頼む。破格のバイト料ということもあり、曜子は承諾するのだった・・・・・・。
典型的な恋愛小説。いや、馬鹿にした言い方ではない、文字通りとってください。良い作品だと思います。二人の男性の間で揺れ動く、曜子の感情、気持ち、心模様の描写が美味く、彼女の切ない気持ちがよく伝わります。恋愛のあの「切なさ」を味わいたい方は、是非読んでみてください。

エンド・オブ・サマー/ジョン・L・ラム・著

2010年3月30日(火)
原題は、The End of Summer/John Lowry Lamb
オハイオの田舎に住む少年ニック。半年前の冬の嵐に事故があり、ニックの大好きだった父は死亡、母は重態となった。ニックは直後に数週間に及ぶ失語症になるほどの精神的ダメージを負う。そんなニックを救ってくれるのは、近くの森林にあるブレーブス・ポイントに住むエリー・インディアンの精霊たちであった。 こころがほっとするようなファンタジー・ヒューマンドラマ。少年が、大きな悲しみを越えて成長していくひと夏を通して、生と死、そして自然と世界がどのように繋がっていくのか、今はどのようにしてあるのかを、読む人に考えさせる作品。にもかかわらず、ラストには、「え!そうだったの?」というどんでん返しまであり、物語としての完成度も高いです。涙はでませんでしたが、涙を流してしまう本よりも、感動してしまう一冊です。

鉄塔のひと/椎名誠・著

2010年4月4日(日)
本題タイトル他計10編の短編集。
ある朝起きてみると、妻が見も知らない別人に変わっていた。しかし、朝食の支度など、いつもと変わらない、妻でしかわからない、私の好みを知っている。だけど、顔も体系も全くの別人である・・・・。『妻』
ある日突然使い残された鉄塔の頂上に家を建て始めた男がいた・・・・。『鉄塔のひと』など、落ちのあるようなないような、しかし、不思議な後味を残す絶妙な椎名ワールドが展開されます。

本当は恐ろしいグリム童話/桐生操・著

2010年4月7日(水)
シンデレラ、白雪姫、眠れる森の美女、ヘンゼルとグレーテルなど、おなじみのこれら全てグリム童話です。誰もが幼き日々に聞かされてきたこの童話。実はこの童話の原版は、私達が知っている「童話」などではなかったのです。
世の中、確かに知らない方が良い事もある、と実感した一冊。あまりの残酷さ、エロさ、ではっきりと皆さんにお勧めできません。まぁ、この手がお好きな人のみでしょうね、14,5世紀ごろの話だとか、どうやらこのあたりの世界観では当たり前のような常識が、今を生きる私達にはむごすぎるんだなぁ、という事もわかりますが、やっぱりお勧めは、できませんね。読後非常に後味が悪いです。

遠い海から来たCOO/景山民夫・著

2010年4月16日
フィジー諸島を舞台に、そこに住む少年と、6500万年前に滅んだとされる、恐竜のCOOとの話し。ファンタジー冒険小説。
洋助は、フィジー諸島のパゴパゴ島で父と二人で暮らしていた。ある日。近くのサンゴ礁の浅瀬に身を縮めて怯えている未知の生物を発見する。海洋生物学者の父と出した答えは有り得ないものだった。それは、6500万年前に絶滅した恐竜、別名首長竜と呼ばれるプレシオサウルスの子供であった。
前半はゆったりペースで話が展開し、少々飽きがきたのに、後半、急展開を見せる話しは、ハイピッチでエンディングを迎える。うがった見方だが、どうしても「連載物」のネガティブ要素が顔をのぞかせる点が残念だ。

黄色い雨/ 草薙 渉・著

2010年4月26日(月)
星尾が目をさますと、新幹線「のぞみ21号」の車内だった。しかし、新幹線は駅でもないところで、停車したまま動こうとしない。それどころか、列車内には星尾の他、誰も乗車していなかった。駅を出発する時には半分ほどの席は人で埋まっていたというのに。よく見ると、あちこちの座席に人の形をした、あたかも人だけ抜いたような形に洋服が落ちている。スーツの上下の中をのぞくと、パンツやシャツ、靴下に靴まである。新幹線を飛び降り、最寄の町に助けを呼びにはいったが、そこでも誰もいなかった。

コンセント/田口ランディ・著

2010年4月29日(木)
2ヶ月ほど前から行方不明になっている兄が死体でみつかった。精神的に病んでいた兄だが、忽然と私の部屋からいなくなり、どうやら一人暮らしを始めるために、アパートを借りたようだ。そのアパートの一室で、発見された遺体は、死後2ヶ月を経過しており、壮絶な異臭を放ちみるも無残に朽ち果てていた。しかし、おかしいことに、掃除機はコンセントにつながれており、まさにこれから掃除を開始しようとするような光景であった。まるで、日常雑事をこなしている最中に、突然生きることを止めてしまったようだった。兄は何故死んだのか?自殺なのか?それとも他殺?特別な事情でも?私、朝倉ユキはどうしても、兄の死の真相を知りたかった。

リカ/五十嵐貴久・著

2010年3月28日(日)
本間は、出会い系サイトにはまっていた。そこで架空の本田という名を語り、交際目的でひっかかってくる女性を狙っていた。ただし、援助目的や、サイト慣れしている女性は眼中になく、自分の考える好みの女性を待ち構えていた。そんなある日、リカと名乗る女性が、彼の目にとまり、文体から受ける印象は申し分なく、本間はこのリカを理想の女性と定め、アタックを開始する・・・・・・・。