2012年6月30日土曜日

あおぞら/星野夏・著

著者本人の体験をつづった話。赤裸々で飾らない文体が、時に読むのを辛くさせる。とても真摯な気持ちが伝わってくる。
 中学2年の時、友人に裏切られレイプ。そして、それをなぐさめようと近寄ってきた友人にも、またしても裏切られ、暴行される。男不信と一人でいる不安に耐え切れなくなり、反動で自殺未遂、売春、下着売り、キャバクラ勤めなどをし、すさみきった所へ、幸太と出会う。どん底から夏を救ってくれた幸太と恋に落ちるも、事故で幸太は帰らぬ身に。激しく憔悴し、落ち込む夏をまわりの人々は優しく包む。夏もその事実に気づき、一人で生きているのではない、という自覚を持ち、やがて幸太の分まで生きていこうと決心する。
 レイプされている時の心の状態までも本当に素直に書き記し、頭が下がる。と同時にこんな男もいるのだと、改めて思い知らされる。男性に是非読んで欲しい。

2012年6月28日木曜日

六月の家/夫馬基彦・著

雑誌カメラマンの村石は3年前妻と離婚し、現在は一人暮らし。とはいえ寮生活をおくる娘の星子は定期的に村石の元を尋ね、同じマンションの一階上に住む多加子と半同棲を送るのんびりした身分。ある日些細な事で多加子と口論し、数日会わなくなった。多加子の方からジョギングを一緒に走って欲しいという口実を契機に仲直りをする。 
 文章の内容を要約するとこれだけの事。もちろん文学なので、その裏を読み取らなければ。6月の家とは、近所にできた南欧風のしゃれた家のこと。 この家に住むのはてっきり若夫婦と思ったら老年の仲睦まじい夫婦であり、マンションから見える小さな畑を耕す老人の後をつけ、彼の自宅をさぐったら、大きな屋敷の持ち主であったにも関わらず、老人本人は、その隣の旧本宅らしき所に頑固さゆえに一人住まい。息子達は豪邸の方で暮らしているという事情。そして、村石達の同じマンションの2階と3階で、行き来する同棲的な生活を送る自分らの住宅事情。これらを対比して、様々な人間模様が人の数だけある、という事を述べているようだ。  

 相変わらず、「文学」は難しく、取っ掛かりがない。

2012年6月22日金曜日

ホルモー六景/万城目 学・著

前述の「鴨川ホルモー」のスピンオフ的な作品。6話の番外編からなる。
安倍達と同時代ホルモーを戦った、京産大の定子と彰子の女の友情を書いたもの。後に安倍の彼女となる楠木のアルバイト先での年下高校生との初デートの話。梶井基次郎がその当時ホルモーに関連した友人を持っていたという話。現在京都の4大学で行なわれているとされるホルモーが、女の子の偶然の行動で更にもう一つ同志社大もホルモーが解禁になるという話。実はホルモーは京都だけでなく、東京の大学間でも行なわれていたとする話。立命館大のホルモーのサークル部長の珠実が、400年の時を越えて、織田信長の家臣「なべ丸」と文通し、恋を育む話。

2012年6月20日水曜日

鴨川ホルモー/万城目学・著

数あるサークルの中から、「京大青竜会」を選んだのは、安倍が一目ぼれをした早良京子がいたからであった。しかし、このサークルの実体は、「ホルモー」と呼ばれる競技であった。京都に古くから伝承されてきた「ホルモー」とは、オニと呼ばれる体長20cmほどの小人を闘わせるものであった。京大、立命館、京都産業大、そして龍谷大の4大学間で競われ、部員は1学年10名で、隔年しか新入生の勧誘はしない。1年目でオニを操る鬼語を取得、訓練し、2年目でホルモーを初体験し、3年目では対戦しつつも、新たな1年を教育する、というサイクルで動く。安倍は友人高村と1年次に鬼語の習得に励みながら、しかし、早良は同じ青竜会の同学年芦屋にとられてしまう。もとから虫の好かなかったことから、ホルモーは10名1チームから5名1チームへと分散して闘うことに。一方青竜会のもう一人の女性、楠木からも嫌われていたと感じていた安倍であったが、実は楠木が安倍を好きであったことがわかり、楠木のために優勝を誓う。もっとも、ホルモーを操らせたら天賦の才のあることがわかった楠木が安倍を始め、皆を引っ張る形でついに優勝を果たす。そして、3年生の春、安倍と楠木が揃って鴨川のほとりを歩き、新たな新入生を獲得すべく、歩みだした。
 あらすじを書くと、こうもおもしろくなくなってしまうが、2006年度「本の雑誌」第一位を獲得。実際にもとてもおもしろかった。

2012年6月14日木曜日

花腐し/松浦寿輝・著


 祥子が入水自殺をしてすでに十何年も経とうとしているのに、クタニは今だに彼女の想いをひきずっていた。経営していたデザイン事務所も徐々に行き詰まり、最後は共同経営者の友人に逃げられ、今はもう不渡りを出す寸前であった。現在のクタニは、そうした肩書きを持ちながら、知り合った金融会社の社長に頼まれ、立ち退き屋の仕事でなんとかしのいでいた。最後の住人の井関は、一風変わった男で、妙に馴れ馴れしく、クタニに近づいてくるが、疎ましくも嫌えないのであった。2人で酔ううちにクタニは現実と過去と幻想が入り混じってくる。祥子がすぐ傍らで囁くようでもあり、また、井関の部屋にいた裸の少女は、井関の栽培しているマジックマッシュルームでうつろな表情であるが、それもまた現実とは思えなかった。酔った後、井関の部屋で飲みなおすうちに、クタニもマジックマッシュルームの臭気にやられたのか、現実が定かでないなかで、裸の少女とセックスをしているようであり、股間の感覚はあるのに、現実感が無い状態であった。気がついた時には誰もいず、部屋を出てみたがほぼ一昼夜寝ていたらしく、外はすでに夕闇の中。なんとなく居心地の良いアパートに自身が住んでみようかなと思いながら階段を降りるクタニ。その視界の横に死んだはずの祥子の姿が見え、クタニは降りきった階段をまた上りはじめるのだった。

 自分的には、苦手の「文学作品」を引いてしまったようで、何を言いたいのかさっぱり分からない作品。

2012年6月10日日曜日

邂逅の森/熊谷達也・著

秋田のマタギ・富冶の生涯を綴った話。 大正3年ごろ、マタギを始めて3年程の富冶はようやく1人前のマタギとして認められはじめた。そんな頃、町長の娘と恋愛し、子供を作ってしまう。二人は見つかり、富冶は町長の策略で、山奥の鉱山で住み込み働きを命じられ、娘は町長の見つけてきた医者の卵と結婚させられる。鉱山では最低3年働かないとふもとに降りる事はできないことを知り、富冶は娘・文枝をあきらめる。一方、鉱山で働くうち、富冶に子分の小次郎ができる。マタギの仕事がわすれられない富冶は、小次郎の誘うままに、小次郎の育った村で、新たに組を作り、マタギの仕事を再開、小次郎の姉イクと結婚し、16年後、イクとの間にできた娘を同じマタギ仲間の鉄五郎の息子のもとに嫁がせる事ができた。そのころ、富冶はマタギを引退しなければいけないか悩みはじめる。そんな時山の主と称される大熊が出現、富冶はこれを「山の神」の化身と考え、これに勝てばマタギを続けると決心する。熊との一騎打ちは熾烈を極め、富冶は左頬の肉をとられ、右足はふとももの肉、そして足首を失う大怪我を負い、マタギを引退どころか、生命の危機を負う。意識が薄れかけた時、かろうじて討ち取ったはずの山の主が目の前に現れ、富冶を妻の待つふもとの村ちかくまでいざなう。ラストシーンは富冶がいざなわれ、村を見下ろす丘まで戻ってきたところで終わる。

夢風船/藤川桂介・著

アイドルを好きが高じて、独り占めにしたくなり、逆に憎悪がましてしまい、アイドルの写真にピンを刺したところ、アイドルが本当に謎の死を遂げてしまう「100万本の薔薇」 子供のころ、夏樹と京子は、 縄跳びをする時、いつでも持ち手をやらされた。それを不満に思っていたが、やがて、二人はそれが自身の人生の役割である事を知る。そして、それが、一人ではなく、二人によって達成される事がわかり、結婚する「縄跳び」他、全7編を収録。