2012年4月28日土曜日

さくら/西加奈子・著

家を出た父が3年ぶりに戻る、という知らせを受け、長谷川薫は年末家に戻る。そこから薫の少年時代に物語が進む。薫には2つ上の兄一がおり、妹の美貴が、飼い犬のサクラ、そして、仲の良いハンサムで、そして美しい父母がいた。薫はハンサムで学校のヒーローの兄、そして、誰もが振り向く美少女ながら凶暴で物怖じしない、妹にはさまれ、普通の存在として育ったが、長谷川家は幸福で平和な家族だった。物語は少年時代の楽しい、そしてちょっぴり甘酸っぱい少年、少女の恋のエピソードをその大半につぎ込むが、後半は反動か、とてもせつなく、悲しい展開になる。ヒーローだった兄はある日、交通事故に遭い、顔面半分と下半身を失う。それまでのギャップに耐え切れず、事故の1年後くらいにみずから首吊り自殺してしまう。その事故あたりをきっかけに家族は崩壊していく。そして回想は現在に至り、サクラまでもが瀕死を迎えて、崩れは最高潮に。家出からもどった身の置き所がない、普段物静かな父はしかし、この時は意を決して、サクラを助けるために大晦日の夜、病院を探しに行くことを宣言する。かつて幸せだった家族が兄の死を乗り越え、悲しみを内に秘めながらも立ち直っていく姿を描いた作品。女性作家特有の繊細が光る心暖まる物語。

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