2012年3月11日日曜日

その木戸を通って/山本周五郎・著

2011年3月19日(土)
 江戸時代を中心に描かれた時代小説。同名作を含む7作の短編集。
ある日、平松は家に帰ってみると、見知らぬ娘が屋敷にいた。女は記憶を全く失っており、自分の名前すら覚えていなかった。平松は石高の高い鹿島家との縁談も決まっていたが、娘の不思議な安らぐ魅力に自分の嫁として迎え入れた。月日は流れ、娘は「おふさ」という名で呼ばれ、平松の間に子供をもうけた。この頃になると、おふさはわずかながら記憶の断片を思い出すようになっていた。平松は、おふさが完全に記憶を取り戻すことで、今の生活が壊れるような気がしてならなかった。その予感は的中する。ある日城中から帰ると、おふさは、姿をけしていた。誰も行方を知らず、子供だけが、裏木戸から、ふらふらとおふさが出て行ったのを見ていた。方々手を尽くし、おふさの行方を捜したが、おふさがみつからない。おふさは完全に過去の記憶がもどった、そして、その生活に帰っていったのだ、と平松は思った。と、同時に、自分との間に子をもうけるまでに至った、現在の生活をきっと捨てはしないだろう、きっと、その木戸をくぐって、ひょっこり舞い戻ってくるにちがいない、とも思うのであった

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