2012年3月18日日曜日

右岸/辻 仁成・著

2011年9月16日
 祖父江九という人物の一生を描いた作品。
やくざの父を持ち、小学校の時、親友に自殺され、同時期に超能力に目覚め、サーカス団に入りスプーン曲げで一躍有名人となるが、TVに出たおかげで、父を探していたやくざに父を射殺される。自殺した親友の妹にふられ、それが原因となり、世界各地を放浪する旅にでる。最終的に落ち着いたパリで仲間もでき、美しい妻を娶り、アミという男の子を授かるが妻の交通事故死に直面し、気が動転し、ふらふらと車道に飛び出し、自分も事故に遭い重症、脳と左半身に傷を負う。同じく当時なにものかに息子を連れ去られ、消息不明に。傷心と事故の傷とで、記憶喪失になり、日本へ強制帰国の後、植物と暮らす、半ば自閉症気味の生活を数年間送る。その時も超能力はさらに威力を増し、自らの体や物体を空中に浮かす事ができるようになる。それがマスコミに知れることとなり、九は教祖的に扱われ、狂信者まででてくることに。一方で、茉莉(親友の妹で、初恋相手であり、一度ふられているが、あきらめきれず、九の一生を通じて、キーパーソン的に関与する)の手助けをはじめ、周囲の人物の助けもあって、九は記憶をとりもどす。以前世話になったサーカス団に身を隠しながら、超能力を手品としてみせ、サーカス団の財政的ピンチを救う。やがて、時は移り、行方不明であった息子とも再会し、サーカス団のオーナーにまでのぼり詰めるも後輩に譲り、引退へ。その後はすべての事象に感謝の念を抱き、神からあたえられた自分の一生から学んだ事柄に感謝しながら、茉莉の隣人として余生を過ごすことに。すでに体は不調を訴え、余命いくばくも無しといったところで物語は終わる。非常に長い小説だが、果たしてこれほど長い必要があったのが疑問が残る。無駄と思えるエピソードも多く、本人が「馬並みのデカマラ」の持ち主との設定だったが、そうでなかったとしても本編に全く何の影響もなかったことを考えると、残念である。考えさせられる内容のある作品だっただけに、もう少しピシッと締めた小説にできたはずなのが惜しい。

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